11月17日、米国を訪問した安倍晋三首相は、トランプ次期大統領と会談した。およそ1時間半の会談をとおして、両者は互いに好感を持ったようである。米次期政権においても両国関係は、まずは順調といったところだろう。
トランプが大統領選で勝利した理由は、多くのアメリカ人が「変化」を求めたからだ、と僕は思っている。ヒラリーでは現状を変えられないとの判断が下されたのだ。とはいえ、トランプがもたらす「変化」によって、アメリカがよくなるか、悪くなるかはわからない。しかし、ともかくアメリカ国民はトランプに賭けたわけだ。
トランプは主に2つのことを主張している。1つは保護主義、反グローバリズムだ。グローバリズムは、一部の大企業などには恩恵をもたらしたが、その他の企業や産業には、むしろ不利にはたらいた。そのせいで格差が広がったと考えるアメリカ人が少なくないということだ。だからこそトランプは、TPPに参加しないなどという、保護主義を主張するのだ。しかし、アメリカは農業やIT産業などの輸出大国である。それを踏まえて、トランプは、どのような政策を打ち出してくるのだろうか。
彼のもう1つの主張は、「世界の警察」をやめるということだ。日本や韓国は、アメリカに頼らず、「自分たちの手で自国を守れ」と言うのだ。
以前、書いたことがあるが、ビジネスの世界でのトランプは、極端な主張をしておいて、交渉で有利な条件にもっていくのがうまい。また、大勢での交渉は苦手だが、1対1の交渉に強かったそうだ。
すると、トランプは多国間交渉は不得手でも、二国間交渉では強さを発揮しそうだ。貿易についても、TPPではなく、二国間交渉でアメリカ有利に持っていく可能性もあるだろう。安全保障の面でも、何か落としどころを考えているかもしれない。
選挙戦中、あれほど批判し合っていたオバマ大統領と、そつなく会談をこなすなど、早速トランプは、したたかさを見せている。
ところで、「トランプはレーガンの再来か」「トランプはレーガンになれるか」と、トランプとレーガンを比較したり、レーガンになぞらえたりする記事を目にする。たしかに、たとえば減税など、政策面で似ているところはある。だが、レーガンはグローバリズムと「世界の警察」を一貫して掲げていた。2人の主張は、大枠ではむしろ真逆なのだ。ただ、2人とも政治家として未知数という点で共通している。
大統領就任後、トランプはどう「化ける」のか。こんなにも目が離せないアメリカ大統領は、僕にとっても初めてかもしれない。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年11月28日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。