朴大統領が退任しても「負のナショナリズム」は続く

池田 信夫

韓国の朴槿恵大統領が「任期短縮を含めて進退問題を国会の決定にゆだねる」と述べ、実質的に退陣を表明した。これは遅かれ早かれ予想されていたことで、韓国では珍しくない。軍事政権の大統領は(彼女の父を含めて)例外なく失脚するか殺され、文民が大統領になってもすぐクーデタで失脚した。

こういう事件が繰り返される背景には、儒教の伝統がある。中国では科挙ですべての国民から官僚を登用したが、この高級官僚は3万人に1人ぐらいしかいなかったので、他の一般公務員は彼の一族を雇った。宗族(親族集団)は結束を固めて秀才を支援し、彼が科挙に合格したら大挙して公務員や出入り業者になって税金を食い物にした。

こうした腐敗で政権が劣化すると、農民反乱や異民族の侵入が起こる。これが300年に1回ぐらい成功して王朝が交替すると、皇帝の一族も高級官僚も皆殺しにされる。宮廷は徹底的に破壊され、遷都が行なわれることも多い。つまり中国では「革命」のたびに政権が根こそぎ破壊され、その正統性も失われるのだ。

中国の劣化コピーである韓国では、大統領が交代するたびに王朝が交替する。これはカール・シュミットのいう「政治的一神教」だ。この構造を維持するには、つねにすべての国民の敵を作り出して「われわれ」の同一性を保つ負のナショナリズムが必要で、日本はそのためにでっち上げた敵だ。

旧植民地が旧宗主国をこれほど憎むのは異例で、台湾とは対照的だ。台湾の場合は中共という巨大な敵がいるので他に敵をつくる必要はなく、むしろ日本を味方につけないと危険だ。しかし韓国には、そういうわかりやすい敵がいない。北朝鮮には数百万人の離散家族が残っているので、敵か味方かわからない。

そこで日本を敵に仕立てるシンボルとして使ったのが、慰安婦問題だ。普通は敵にされた側が怒るが、日本では朝日新聞が政府の後ろから弾を撃ってくれたので、韓国にとってはラッキーだった。朴大統領の次が誰になるかは知らないが、韓国の地政学的な位置が変わらない限り、負のナショナリズムは続くだろう。