「OPECの減産は皮肉にもシェールの増産を招く」という一般的な印象論の当否を冷静に考えるのに役立つ記事を、FTのEd Crooksが書いている。”OPEC decision brings welcome relief to US operators” (around 18:00 on Dec 1, 2016 Tokyo time)という記事だ。この見出しだけでは一般的印象論とあまり変わりがないが、サブタイトルが “Share price rise but fragile balance sheets threaten production increase” となっているところに注目したい。
例により、筆者の興味に基づいた要点を次の通り紹介しておこう。
・OPEC削減合意は米国のシェール産業にとって朗報だが、多くの会社がBSを改善する必要があるため、増産に移ることには慎重だ。
・調査会社Wood Mackenzie(ウッドマック)によれば、ConocoPhillips、Pioneer Natural Resources、Marathon OilやDevon Energyのように、50ドル以下でも必要な投資ができる会社もあるが、多くの会社はもっと高い価格を必要としている。
・Baker Hughesによれば、シェールオイルに使われる水平掘削用リグの稼働数は6か月前の最低水準248基から、先週には52%増加し376基となっている。約40%コスト削減が実現しており、テキサス州西部のPermian Basinやオクラホマ州中部、南部では50ドル以下でも利益が出る坑井もある。調査会社Rystad Energyによれば、シェールオイルは過去18ヶ月間減産を続けていたが、毎月450本程度の坑井から新規生産が行われるようになり、ようやく横這いになった。
・Deloitteによれば、シェールオイルが再び成長軌道に戻るには12~18ヶ月かかるだろう。2010~2015年に400万BD増産しているが、Dealogicによれば、これは銀行融資7,580億ドル、社債発行2,750億ドルという巨額の資金借入により支えられていた。
・収入減により石油会社の財務内容は悪化しており、S&P Capital IQによれば、上場石油開発会社の純負債は過去12ヶ月の間にEBITDA(Earnings before interest, tax, depreciation and amortization)の4.1倍になっており、2005年の0.7倍から大幅に上昇している。
・Conocoは、油価上昇により特別収入が入ったら、まず負債削減に充当し、成長のために使うのはその次だ、と明言している。他の多くの会社が同じような状況にある。
・Dealogicによれば、米石油開発会社の社債発行は、今年はこれまでに175億ドルで、2015年の287億ドルと比べると鈍化しており、2008年以来最低となりそうだ。
・一方、新株発行は427億ドル記録的な年になりそうだ。だが、負債が大きな、貧弱な資産しか保有していない会社は、新株発行により新たな資金を調達することはできないだろう。
・増産を妨げるもう一つの要因は、サービス産業の応じる能力が低下していることだ。古い資機材は廃棄されており、15万8000人のスタッフが解雇されている。サービス産業は、石油開発会社から(油価上昇により増産のための)サービス提供を求められたら、過去2年間に叩かれまくって低下しているサービス費用の値上げを要求する、と明言している。
・おそらくもっとも重要な障害は心理的な要因だ。コンサルタント会社Opportuneによれば、米石油会社はOPECの合意削減がどのように実行されるのか、またいつまで(油価への)好影響が続くのか、不確実な部分があるので、必要以上に事業を拡大することに慎重になっている。
・同じような慎重な見方として、来年半ばまで米国の石油生産は少しずつ減少するだろうという予測をしているウッドマックが、いまだに何ら変更していないところに現れている、と指摘するコンサルタントもいる。
・また、油価が上昇し続けるなら、米石油会社は事業を活発化させるだろう、という石油開発事業調査会社の人もいる。曰く、「生産業者は、収入以上に使う傾向にあり」「できるなら、いつでも増産したいと思っているものだ」。
なるほど。
在来型と比べると、シェール産業は価格弾力性が高いのだが、それでも現場では複雑な要因が絡まり合っているので、印象ほどには簡単に増産にはつながらないようだな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月2日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。