今年ほどネットメディアが注目された年は無かった。都知事選、参議院選、その後は蓮舫氏の二重国籍疑惑を追及したことでネットメディアの位置づけに注目が集まった。蓮舫氏に関しては、アゴラでも八幡和郎、池田信夫両氏からの追及があった。八幡氏、池田氏ともに、洞察力と分析力、それらを支える豊富な経験と知識で切り込んでいった。
ところが当初は、取扱いも小さくソースについての言及もされなかった。メディア業界にはヒエラルキーが存在する。例えば、週刊誌報道などをテレビが後追いする際に「一部報道」などとしてソースを明らかにしないケースがある。序列も、テレビが一番強く、ネットメディアの評価は高くない。それを一蹴したのがこの報道だったように感じている。
今回は、『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた? 』の著者であり、アゴラ編集長の新田哲史(以下、新田)に、一連の報道の流れを振り返ってもらった。
今年は文春砲に注目が集まり炸裂した
今年の報道は週刊文春のひとり勝ちの様相だった。SMAP独立に始まり、イクメン代議士不倫やベッキー問題、ショーンK氏の経歴詐称、文字通り、世の中を揺るがすスクープを連発した。週刊文春の報道の影響力をさして「文春砲」、「センテンススプリング砲」(センテンス=文+スプリング=春)とも言われるほどの勢いだ。
「私たちも文春なら蓮舫氏の二重国籍問題を取り上げるのではないかと、報じることを意識し、逆に、私たちの旗色が悪かった時期には文春の報道による追い風効果を期待したこともありました。ところが、文春が大きく扱うことはなく、関係者に探りを入れたが、やる気はないようでした。」(新田)
「また、文藝春秋の論調は保守ですが、二重国籍の問題に対して目くじらを立てるような問題意識はなかったように思います。ただし彼らに報じる気があったとしても、物理的な問題も大きかったと思います。」(同)
蓮舫氏の問題がクローズアップされてから、アゴラは八幡氏や池田氏が、蓮舫氏のインタビュー記事や記者会見における発言のファクトチェック記事を矢継ぎ早に出し続けた。
「超ド級の威力を誇る『文春砲』でも、7日に1回しか発射できません。週刊誌は週1回の発売ですから装填・発射される機会が限定されます。一方、アゴラは、いつでも記事を出せる態勢にあるネットメディアの特性をフルに活用しました。そのことも他媒体が消極的になった理由ではないかと思われます。」(新田)
「そしてアゴラが既存メディアに先んじることができた最大の要因。それは、ネット民が発掘し提供してきた情報を存分に活用ができたことです。」(同)
ネット民のもたらす情報を精査する
これまでもネット民の調査能力は侮りがたいものがあった。しかし、今回のように、時にはネット民に情報提供を呼びかけ、リアルタイムで新たな情報が寄せられ。局面の変化に応じて欲しい情報にたどり着くという構図が展開された例は過去にはほとんどない。
「既存メディアには、ネット民から寄せられる情報をフレキシブルに使いこなしながら取材を進めるという発想はありません。もちろん、ネット民のもたらす情報の真偽を見極めることは大前提ですが、既存メディアは特ダネを隠匿する傾向があります。しかしネットメディアなら、もっとフレキシブルに対応できます。」(新田)
「今後は、左派色の強いネットメディアが保守政治家のスキャンダル暴きに利用するパターンも今後出てくると思います。既存メディアの典型である新聞社で働いた経験のある私としては、調査報道のイノベーションを感じました。」(同)
本書は政治経済をジャンルとするノンフィクションである。ネットメディアの最前線にいる新田が今年の具体的な施策や効果についてつまびらかに綴っている。実はアゴラの昨年同時期のアクセス数(月間)は、単体で300万PV、Yahooニュース等への配信分も含めても全体で700万PVほどだった。それを新田の編集長就任以降は、1年を経ずに、単体1000万PV、全体3000万PVを実現している。
政治経済に関心のある方にはもちろん、ネットメディアに関わる方、さらには個人でブログを開設している人にも役に立つだろう。この1年間の全ての施策や流れ、そして結果が把握できるのだからこれ以上の教材は存在しないはずだ。
「月間2億PVの東洋経済オンラインさん、5000万PVのダイヤモンドオンラインさんには、まだまだ及びませんが、大手メディアの一角に食い込むのが目標です。この1年で得た経験とノウハウを糧に、言論サイトとしての社会的なプレゼンスを高めていくか、これから真価が問われますね」と穏やかに語る、新田の表情には一点の曇りもなかった。
尾藤克之
コラムニスト
アゴラ出版道場、第1期の講座が11月12日(土)に修了しました。12月からは毎月1度のペースで入門セミナーを開催します(次回は12月6日開催)。
なお、次回の出版道場は、来春予定しています。