産経は韓国に“加担”した日本の政治家の名前を出すべきだ

新田 哲史

産経新聞は朴大統領への名誉毀損を問われた(KBSテレビより引用)

いよいよ今週は拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)の発売とあって、国内政局を中心に「世論ゲーム」ネタを書こうと思って一部仕込みもしていた矢先、ちょっと驚くような“暴露”記事があったので予定を変更する。いやはや、これは爆弾になるかも。

「韓国に謝れ」産経に圧力をかけていた日本の政治家(JB Press)

筆者は産経の大物OBで現在も客員でワシントン駐在特派員の肩書きを持つ古森義久氏。タイトルで中身をほぼ物語っているが、記事によると、朴大統領に関する記事を書いたソウル支局長(当時)を名誉毀損罪で韓国の検察当局が起訴した公判中、日本の政治家で産経サイドに韓国側への謝罪を持ちかけてきた者がいたのだという。前支局長がこのほど回顧録を出版し、その記念パーティーの挨拶の席で産経の熊坂社長がバラしたのだとか。

朴大統領が辞任を表明したことで、現政権絡みの隠された事実がいろいろと出てくるのだろうが、日本絡みで早くも興味深いネタが噴出した格好だ。しかし、笑ってはいられない。ある国の政府が、他国の政府や世論との関係を円滑にするため、その国の政治家や有力者に働きかけ、時には“エージェント”として取り込もうとするのは世の常ではあるが、大事なのは、有権者が選挙での投票判断材料を得られるよう、そのあたりの関係性がある程度、透明化していなければなるまい。

外国によるロビー活動の透明度を巡る日米の違い

韓国は、日本よりも国際世論工作に長けていることで知られる。私は別に札幌在住の某弁護士にdisられるようなネトウヨでもないし、韓国に対して差別的な価値観や陰謀史観は持っていないが、たとえばアメリカ国内で慰安婦問題を巡る韓国のロビイング・世論工作の攻勢は公知の事実だ。2年前には、同国内で慰安婦像を立てるために“暗躍”していた動きについて、NHKの時事公論でも取り上げられている。

時論公論 「在米韓国ロビーと慰安婦問題」

NHK(出石直・解説委員)によると、アメリカ国内で外国政府・団体のためにロビー活動を行っているエージェントのうち23業者が活動。2012年の1年だけで4400万ドル支払われていたという。生々しいこんな報告もある。

このうちワシントンにあるコンサルタント会社には6億円、ニューヨークのPR会社には4億5千万円が、いずれも韓国大使館から支払われています。

さきほど私は韓国ロビーの活動を“暗躍”とカッコつきで書いたが、この話は陰謀論に関するネタをNHKが告発スクープしたわけではない。記事にもあるように、アメリカの司法省が連邦議会に提出した報告書で明確に書いている(だからNHKが堂々と取り上げやすいということもあるが…苦笑)。つまり、大事なのは、そうした外国政府からの動きに関して、政府や議会がきちんと把握して、議会を通じて有権者に共有・透明化されていることだ。

日本ではこうしたシステムはおそらくないと思うが(もしあったら教えてください)、二重国籍であることを指摘されても開き直っている政治家が野党第1党の党首を務めることが許されるくらいだから、政界からマスコミまで、そのあたりの関係性を曖昧に済ませてしまう風土が根強くあるように思えてならない。万一、他国が、我が国の国益に反することを日本の公人に働きかけたとしても、現状では、十分に可視化されておらず、外国政府による「対日ステルスマーケティング」がやり放題になりかねない。

産経新聞は、アゴラと並んで蓮舫氏の二重国籍問題追及における急先鋒だった。常日頃、日本の国益を重視している論調からすれば、今回、働きかけをしてきた政治家が誰なのか紙面で名前を明らかにし、先方に言い分・反論があればインタビューを掲載するなどの措置を取って、あとは有権者に判断してもらうのが筋ではないか。

与党の政治家だから公表できないのか?

韓国サイドの意向を汲むかのような働きかけをしてきたのは、右寄りのネット民が期待するような民進党の議員であろうか。いや、野党とは限らない。この間、明らかにしなかったのは、もしかしたら与党の議員だから遠慮していたのだろうか。

もし、仮に記者クラブで会見をハブられたりするのが怖くて、どうしても正面切ってやるのが嫌だというなら文春砲にリークして彼らの力を借りてでも国民に知らせるべき案件だ。いや、せっかくならアゴラに情報提供していただいても結構ですよ、熊坂社長。お待ちしております(手揉み)しかし本当に気骨があれば、自社の紙面でまず「告発」するのが真っ当だろう。前支局長が公判中には、安倍政権が韓国サイドに対して遺憾の意を表明し、出国禁止処分の解除を求めてきた経緯がある以上、公益性が高い問題でもある(前支局長の帰国後には総理と会談もしている)。

いずれにせよ、国民の間に「誰が韓国側のステマ議員なのか?」と、疑心暗鬼を広げないためにも産経は対応する責任がある。

それにしても、古森氏が指摘するように、韓国サイドの意を受けた政治家の言う通りにしていたら、産経新聞の地位と信頼が落ちていただろう。いや、産経だけでなく、日本のメディア全体が舐められるところであった。産経サイドに内側から弾を打ってきたとされる政治家と、韓国政府との関係性がどれほどのものかまだ分からないが、国境をまたいだ熾烈な「世論ゲーム」の裏舞台の一端を垣間見た思いである。

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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。「世論ゲーム」において好対照だった2人の動きについても分析しています。

アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。

2016年11月吉日 新田哲史 拝