日本にはドーナツの「参入障壁」があった!クリスピーが破るには? --- 東 登志文 

アゴラ
クリスピードーナツ@tabelog

「食べログ」に投稿された閉鎖店舗の画像(編集部)

クリスピークリームドーナツ(以下CCD)は、最盛期には、目新しいおいしさと、行列の話題性から64店舗に拡大していたが、2015年11月には、現在は三大都市圏と、地域に根付いたと判断される47店舗に縮小されている(参照;都商研ニュース)。

その背景にある、日本のドーナツの参入障壁について、考えてみたい。

日本では、1970年代に海外、特にアメリカから様々な外食産業が上陸し、ドーナツもその一つだった。大阪の吹田市にあるダスキンが箕面市にミスタードーナツ1号店を出店し現在は約1300店の規模となっている。日本のドーナツの市場規模は約1200億円と言われ、2012年頃はその9割のシェアをミスタードーナツが独占していた。

一方、コンビニは1974年に豊洲のセブンイレブン一号店から、現在は約2万店。コンビニは、統計にはないものの、店舗にある什器が約60個であり、賞味期限の2日で完売すると仮定した定量発注で行くと、年間1万個前後の販売が想定され、これらに全国の店舗数を乗じると、その売り上げ総額は約200億円とみられる。

ミスタードーナツの売り上げが

2012年 1147億円
2015年 1020億円
(ダスキンの公式サイトより)

なので、ミスタードーナツのシェアが7%程低下し、コンビニでの販売がミスタードーナツ以外のシェアを満たしつつあることがよく見てとれると思う。

この状況の中で、CCDは64店舗、行列から予測して、1店舗2000個の場合、総額80億弱となり、シェアしては最盛期で6%前後であっただろう。

ミスドが40年かけて築いた参入障壁

ではなぜ、CCDが、撤退を決めたのか。そこにはドーナツ特有の、参入障壁を考えねばならない。

40年の歴史のあるミスタードーナツであるが、他のチェーンと異なり、独特の構造がある。まず店舗の構成要素が、オールドアメリカンを意識した木製で内装が占められ、舶来の専用機器が多い。

これらはダスキン系列の各社から提供され、そのまま初期投資として経費に反映するが、開業時の費用は、初期の回転費用を含めて、1億円弱になり、通常のチェーン店の平均3000万円に比べかなりの高額になるのは確かだ。

そして、いざ営業が始まれば、ロイヤリティーとして、本部のダスキンに支払われるランニングコストは、販促共有費も含めて売り上げの14%前後になる。

他のチェーンが1%~5%が多いのに比べて、こちらも高額である。

よって、もともと体力のある企業にしか、フランチャイズとして開業できない業態であり、そのような企業の持つポテンシャルとして、安定化した運営が為される前提条件があると考えてよいだろう。

その点、CCDにおいては、数年で60店舗までの道のりを考えると、安定した運営には非常にハードルが高い状況であった事が考えられる。

ドーナツの製造には、実は高い技術が必要であり、ミスタードーナツには専用の“ミスタードーナツビジネスカレッジ”まである。

ここにおいて40日以上の研修を修了し、試験をクリアした者しか、ミスタードーナツの店主にはなれない状況である。

CCDが、ミスタードーナツより、さらに高い品質のドーナツを需要の拡大に合わせて提供するには、技術者の確保と育成が不可欠であり、それが計画通りにいかなければ、現状での製造技術者の負荷は限界に達していたかもしれない。CCDが販売数を捌く行列から、イートインにシフトをしているのは、そういう背景であると考えられる。

一方、ミスタードーナツがここ10年で行ったイノベーションとして、冷凍生地の導入がある。以前は店内で2度発酵し、手作業で成型していたものを、成型した物を、店内の“ドーコンディショナー”という機械で1度の発酵で仕上げるものだ。

これならば、技術の高くないアルバイトでも製造可能であり、何より需要に合わせて細かな調整ができる事が大きい。

CCDが見出すべき3つの勝機

では、この状況に対してCCDにはどのような勝機があるのだろうか。

第一は、高単価化である。

ドーナツブランドとして一般化しているミスタードーナツより、高めのブランドボジションを設定し、それに合わせた提供を行うことである。

菓子という商品は、日本ではもともと贈答用のカテゴリーに属するものであり、有名老舗和菓子店の1本5000円の羊羹にみられるように、高単価のものがあるのがその例だ。

ミスタードーナツが支持されたのは、それまで駄菓子か高級菓子しかない中に、気軽に手土産に成り得たからだ。品質の高い商品があれば、ぜひ付加価値を高くおくべきである。

第二は、イノベーションを起こすこと。

誕生日に合わせた画像を商品に移しこむ技術はケーキなどであるが、そのようなサービスを、新たに開発した専用アプリで受付できるようにすれば、現状の技術を集約して強みを活かせるメリットがある。

そして第三は大都市部での宅配業態への進出である。

大都市部での需要は想像以上に多く、競合の優位を感じさせない。先述のアプリを武器に、高品質な商品とサービスを提供できれば、それがCCDの持つ、新たな参入障壁と成り得るであろう。

これらは、同時にコンビニドーナツに対する策ともなる。

新たな進化に期待したいと思う。

 

東 登志文  会社員/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
1968年 大阪生まれ 国立和歌山大学中退。
地元の書店、書店併設の大手飲食チェーンを経て2003年より、宅配大手チェーン店長として地域ビジネスにかかわる。

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