シェル、イランに復帰

岩瀬 昇

このニュースは、次作のテーマ「IJPCとは何だったのか」を考え続けている筆者にとって、政治的難題が存在する海外において事業展開を目指す私企業のありようや如何、という問題を種々考えさせる類のものだ。

FTが “Shell signs provisional oil and gas deal with Iran” (Dec 8, 2016, around 01:30am Tokyo time) と題して報じているもので、サブタイトルが “Agreement shows energy groups not differed by uncertainty over US policy” となっている。

筆者が興味深いと思った箇所を次のとおり紹介しておこう。

・シェルはNIOCと、(イラクとの国境に近い)イラン南西部のアザデガンとヤダヴァラン両巨大石油鉱区およびペルシャ湾内のキシュ・ガス田の研究に関する取引(deal to carry-out studies)に暫定合意した。

・仏トタールが主導するコンソーシアムが(ペルシャ湾内の)サウス・パルス・ガス田の新しいフェーズの開発について合意してから約1ヶ月後だが、大統領選挙中にイランとの制裁解除合意を破棄すると主張していたトランプが勝利してから初めてのもので、果たしてリスクを取る西側の会社が出てくるのかと、アナリストたちが注目していた。

・シェルは、「協力可能な分野を研究する(explore areas of potential co-operation)」この契約は拘束力を持たないものだ、と強調しているが、水曜日の調印式に出席したシェルのイラン事業部門のトップMr. Hans Nijkampは、イランとの関係の「新しいページ」を開くもので「長期的なパートナーシップ」再開の「純然たる希望(genuine hope)」になるものだと発言した。

・参列した在イラン英国大使Nicolas Hoptonは、英国は核合意を支持するし、イランとの商業関係を再構築する意思を、次のように繰り返した。曰く「今日の契約調印は、ヨーロッパとイランの商業関係がたえず成長しており、さらに前進することのポジティブなシグナルだ」

・Totalやシェルとの取引はまた、トランプが当選し、米下院がイラン制裁法を延期する決議をしたことを受け、イラン支配構造の中の保守強硬派が中道派のロウハーニー大統領に対する政治的圧力を高めている中で行われたもので、Wood Mckenzie社の中東アナリストであるHomayoun Falakshariは、今回の取引は経済制裁が解除されたことの成果だと立証することに役立つものだ、と指摘している。

・イランは、向こう5年間にエネルギー分野に約2000億ドルの外資導入を目指しているが、アナリストや業界関係者は、イランは金融面のみならず大手国際石油会社の先進技術も必要としている、と指摘している。

・Mr.Falakshariは、シェルが関与するアザデガンとヤダヴァラン鉱区は、過去20年の間に発見された世界最大のもので、それぞれ300億バレル以上の埋蔵が試算(estimate)されており「両鉱区の開発は、サウス・パルス・ガス田とともに、イラン政府にとって最優先事項だ」「開発が進めば現在17万BDの生産が、2025年には90万BDへの増産が可能になろうと見ている」「かつての戦闘地域にあるので(地雷除去が必要で)採掘に困難がともなうが、(シェールオイルなどと比べると)開発が容易な在来型のものである」という。

・シェルは、これらの鉱区への投資はまだコミットしていない、(部分的に解除されていない)国際的な制裁条件にはしたがう、としている。米国のイラン制裁国内法の存在が、米銀がいっさい関与できないことから、イランにおける外資の投資活動を複雑にしている。

・複数の欧州企業はさまざまな形でイランに復帰する意向を示しているが、エクソンやシェブロンなどの米系メジャーは様子見のままである。

さて、と。
トランプ「大統領」はどのような手を打ってくるのだろうか、いや、打てるのだろうか?
共和党寄りの大手石油会社が何をどう望むのか、というのもファクターの一つだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月8日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。