アメリカで普通の弁護士よりも優れたロボットが開発され、いずれ弁護士はロボットに太刀打ち出来なくなるのではないか、弁護士は斜陽産業だ、などという記事を読んだ。
しかし、定型的な業務であればどんな仕事でもロボットに任せることが出来るようになるだろうが、普通の弁護士がやっているような一般の法律業務をロボットが出来るようになるとは思えない。
ロボットにどんな情報を与えるかで決まってくるのだが、その情報の収集が難しい。
法律の条文や裁判例、様々な法令の解釈基準などを予めロボットにインプットして、証拠によって確定される具体的な事実を入力して行けば、それなりに答えが出そうなものだが、事実の確定が実に難しい。
ある程度は経験則で事実はこれこれしかじか、と判断出来るのだが、その経験則がどの程度客観的で有効か、ということになると何とも言えないところがある。
当事者間に争いがない事実なら、争いがない事実を事実として認めて法的判断を下せばいいのだが、当事者の間で事実関係に争いがあると、何をもって法律上の判断の根拠とする事実とするか、ということに紛れが出てきて、容易に結論が出せなくなる。
ロボットはコンピューターだから、0か1、右か左、〇か✖かのいずれかに決めてもらわなければ答えが出せないのだが、弁護士が扱うのは大体が事実関係に争いがあることばかりだから、結局はロボットでは答えが出せないことになる。
まあ、それでも何十パーセントの確率で答えはAとかB,あるいはCなどと確率的な答えを出せることがあるのかも知れないが、Aの確率が70パーセント、などと言われても実際の法律実務ではまず役に立たない。
刑事事件の場合は、有罪なのか無罪なのかがすべてで、70パーセント有罪とか70パーセント無罪はあり得ない。
民事事件の場合も損害賠償等の金額はさておき、権利があるのかないのか、勝ちか負けかがすべてである。
コンピュータであれば計算できません、と答えるところである。
だから、ロボットがいくら進化しても、日本の一般の弁護士がやっているようなことは出来ない。
ロボットが役に立つのは、コンピューターが読み取りやすいようにすべての情報が数値化なり記号化していることだろうと思うが、日本の普通の弁護士が取り扱っている法律事件の情報の中にはまったく言語化されていない情報やおよそ数値化や記号化にはなじまない情報がそれこそ5万とあるのだから、いくらAIが進歩しても弁護士の仕事をロボットが代替できるようになるとは思えない。
言語化されない情報にはどんなものがあるか。
ただの沈黙、何となくそわそわした態度、声の調子や大きさ、前に言っていたこととの矛盾、実際の行動との矛盾など諸々ある。
AIが進歩すれば、囲碁や将棋のようにルールが明確なもので、石や駒を打つ場所が限定されている競技の場合には名人上手の人にも勝てるようになるだろうが、ロボットの知能がいくら進歩しても日本の普通の弁護士に勝てる日が来るとは思えない。
まあ、若い方々はそんなに心配されないことだ。
弁護士は、弁護士らしい仕事をしていればロボットに仕事を奪われることはない。
編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2016年12月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。