【映画評】海賊とよばれた男

渡 まち子

1945年、東京。敗戦の焼け跡の絶望の中、石油会社・国岡商店を率いる国岡鐵造(くにおかてつぞう)は、日本人としての誇りを胸に前進しようと社員を激励する。戦後の混乱期にもかかわらず、誰も解雇せず、独自の経営哲学と破天荒な行動力で数々の苦境を乗り切る国岡は、事業を拡大していった。やがて欧米の石油メジャーも国岡を警戒し、その強大な包囲網によって国岡の石油輸入ルートはすべて封鎖されてしまう。ついに、国岡は、会社の至宝である日承丸をイランに送ろうと決意するが…。

明治から昭和にかけて石油事業に尽力した男の生き様を描く、骨太な人間ドラマ「海賊とよばれた男」。原作は百田尚樹の同名ベストセラー小説で、モデルとなったのは、出光興産創業者の出光佐三氏だ。まだ石炭が主流の時代にいち早く石油の可能性を信じた主人公の国岡は、常に未来を向いて行動する人物である。彼の前には、日本の敗戦、国内石油販売への理不尽な妨害、欧米石油メジャーからの輸入ルート封鎖と、桁外れの困難が立ちはだかる。それでも国岡がくじけないのは“士魂商才”の志があったからだ。劇中に会社内に掲げられているこの言葉は、武士の精神と商人の才能を併せ持つことを意味する。現実的な商売はするが侍魂とも呼べる誇りを失わないという志なのだ。確かに国岡の生き方を表す言葉だが、それならなぜ海賊なのか。それは、若き日の国岡が海上で石油を売った型破りな商売のやり方に起因する。

自由で勇敢で誰にも支配されない“海賊”の国岡には、かけがえのない沢山の仲間がいたのだ。若き国岡を支援した実業家から、国岡を慕って集まった社員たち、英米を敵にまわす命がけの日承丸の船長まで、すべてが、国岡に惚れていて、その熱が見ている観客にも伝わってくる。物語の中心になるのは60代の国岡鐵造。主演の岡田准一は、青年期から90代までを一人で演じ切って、見事だ。個人的には、最初の妻・ユキをはじめとする女性の描き方が浅いのが少し残念なところである。「永遠の0」の作者、監督、主演が再び集結しているが、VFXの使い手の山崎貴監督がロケ撮影を駆使しているところに注目したい。特に海のシーンがいい。どんな苦境にもチャレンジ精神を忘れず立ち向かった主人公には、潮風が香る大海原が良く似合う。
【70点】
(原題「海賊とよばれた男」)
(日本/山崎貴監督/岡田准一、吉岡秀隆、染谷将太、他)
(チャレンジ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年12月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。