FTのEd Crooksが掲題記事を書き、レックス・テイラーソンの人と性(なり)、これまでの外国政府との折衝実態ならびに党内外から湧き上がっている疑念の声などを紹介してくれている。東京時間12月12日朝の4時ごろの記事なので、このブログを書き終わる頃には人選が完了し、発表されているかもしれない。だが、レックスの人と性(なり)は、世界最大のエクソンの社風をも表してもいるので、記録としても意味があるだろう。
原題は “Trump’s top candidate for chief diplomat is uncompromising Texan” となっており “Rex Tillerson forged links for ExxonMobil with Russia that are drawing fire” というサブタイトルがついている。
筆者の興味を引いた要点は次のとおりだ。
・2007年2月、国家間の関係改善が進んでいる中、レックスはリビアに行き、伝統的なテントの中でカダフィ大佐と面談した。世界最大の石油会社の社長としてリビアの膨大な埋蔵量へのアクセスを求めており、一方米国としても国交正常化へのマイルスストーンとなる面談だった。この面談は成功を収め、エクソンは11月にリビア沖合の深海における探鉱権を獲得し、翌年にはライス国務長官が米国高官として半世紀ぶりにリビアを訪問した。
・エクソンの社長が国務長官候補として名前が上がったことは、多くの人を驚かせ、多くの人の怒りを買っている。特に、ロシアとの関係と、気候変動問題に関して、だ。
・肩幅の広い、率直な物言いの、テキサス人エンジニアで64歳のテイラーソンは、41年間エクソンに勤めており、2006年から社長として会社を率いている。彼の個性は会社のものとよく似ている、すなわち、高い能力を持ち、見事なほどの知性に溢れ、時に頑固なのである。
・中には傲慢で高圧的だという人もいて、世界中の同業者たちに好かれているわけではないが、エクソンのエンジニアリングとプロジェクトマネージメントの水準はきわめて高く、業界で最高位にあると認識されている。
・レックスは、ベネズエラのチャベス大統領との交渉で、容易に妥協しない面を見せつけた。チャベスが(膨大な埋蔵量を誇る)オリノコベルトの重質油プロジェクトの支配権を強めようとした時、他の多くの会社が妥協し、悪くなった条件でも事業継続を決めたとき、エクソンは断固拒否し、ベネズエラに資産を没収させ、爾来、世界銀行の裁定機関において補償金をめぐる長期の闘いを余儀なくさせた。
・ロシアとの関係は上手く行っているが、そのことがテイラーソンのロシア観への疑念を招いている。たとえばアリゾナ州選出共和党上院議員のジョン・マッケインは、レックスのプーチン大統領との結びつきが「自分にとっては懸念事項だ」と言っている。フロリダ州選出の共和党上院議員であるマルコ・ルビオは「ウラジミール(プーチン)の友人であるということは、自分が国務長官に求めている資質ではない」とツイートしている。
・共和党は上院で圧倒的多数を占めているが、国務長官の就任を承認する外交関係委員会では、10対9の構図となっており、一人でも背信者が出ると承認されないリスクがある。
・民主党の同委員会シニアメンバーであるロバート・メネンデスは、テイラーソンの指名は「憂慮すべき、ばかばかしいことだ」、「自ら望んでロシアの共犯者になる閣僚をトランプ政権の内部にもつことになる」と批判している。
・テイラーソンのロシアとの関係は、同国とカスピ海沿岸諸国担当副社長だった1998~99年に遡る。テイラーソンはプーチンと交渉し、北極海と西シベリアのシェールの開発権を勝ち取った。2013年にはOrder of Friendship勲章を授与されている。両案件の開発作業は、ロシアのクリミアに侵攻により西側諸国が経済制裁を発動しているため、中断したままだ。エクソンは10億ドルを償却した。テイラーソンは、両案件の開発を進めたいと考えており、制裁がもたらすcollateral damageの可能性を米国政府は考慮すべきだ、と主張している。
・「テイラーソンはプーチンのポケットの中にいる、と見るのは間違いだ。エクソンが多くの取引をロシアと行ってきたので、好関係を築いているだけだ」と指摘する人もいる。
・もうひとつの批判は、気候変動に対する立場だ。億万長者の環境派活動家Tom Steyerは、トランプがテイラーソンを選ぶことで「大手石油会社、ウオールストリートならびに極右勢力による民主主義乗っ取りが完了する」と批判している。
・テイラーソンになって、エクソンは気候変動に対する立場を変更している。10月のロンドンにおけるコンフェランスでテイラーソンは「気候変動のリスクが現実のものであり、真剣に対応する必要があるという見方に、我々は同意する」と発言している。
・だが一方で今年「好きか嫌いかは別にして、世界は引き続き化石燃料を使用し続けなければならない」と述べているので、オバマ大統領の化石燃料離れ政策から反転しようというトランプを引き止めることはないだろう。
・彼が何をしようとしても、政府で働いたことがないということが大きなチャレンジとなろう。
うーむ。
テイラーソンが国務長官になったら、西側が一致して行っているロシアに対する経済制裁はどうなるのだろうか。直接的にエクソンのためになることはしないだろうが、間接的に、結果的にいい影響を与えることは十分にありうる。これって「利益相反」とは言わないのかな?
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月13日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。