警察庁とパチンコ業界の癒着とはいかなるものなのか?

宇佐美 典也

久々にパチンコ業界と警察の話です。

さてこのブログでは、いわゆるパチンコの不正クギ問題について散々書き散らかしてきたわけですが、いよいよ2016年12月末をもってあらかたこの問題のかたがつけられようとしています。結論としては、警察庁は行政処分などの形で自らは手を下さず、パチンコ業界側が「業界健全化に向けて自主的に不正改造機の撤去を進める」という名目で、72万台の不正改造機を撤去する形で玉虫色の決着がつけられるようとしています。私自身はこのような曖昧な決着のつけ方では、業界は何も変わらないと考えているのですが、そのあたりの背景も含めて、長くなりますが改めてこの問題から透けて見えるパチンコ業界と警察庁の癒着構造を総括したいと思います。

1.不正クギ問題の発覚から今までの経緯

さてまずは復習がてらいわゆる不正クギ問題の構図を改めて整理しますと、

①パチンコメーカーが遊技機に関する警察の型式検定試験を通過したのちに、
②遊技機のクギの傾きを変更して性能を改変して大量にパチンコホールに出荷し、
③そのあと出荷された遊技機のクギをパチンコホールがさらに曲げて性能を改変する、

というパチンコメーカー、ホールあわせた業界ぐるみの不正改造問題でした。

こうした業界側の行為は、②に関しては(遊技機の認定及び型式の検定に関する規則)の第11条に規定するパチンコメーカーへの検定取り消し事由に該当し、③に関しては風営法第20条第6項違反でホール営業者に対して「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の罰則が適用されるべきものです。日本は法治国家ですから本来ならば当然メーカー、ホールそれぞれが罰っせられなければならないところですが、結果からみれば業界は法的にはなんの責任もとることなく逃げ切ったことになります。この問題が発覚した経緯を遡ると

●2015年6~8月に遊技産業健全化推進機構が遊技くぎに関して、161店舗、258台のサンプル調査を実施。結果として全ての遊技機が検定時と性能が異なり不正改造されていたことが判明した

●これを受けて警察庁が2015年11月にホールだけでなくメーカー団体でもある日工組に調査を依頼したところ、日工組は以下の文書を提出し、<「遊技くぎ」の変更について、日工組組合員にも責任の一端があることは、否定できません>とパチンコメーカーが出荷段階でクギの変更を行なっていたことを事実上自白した。

という具合ですから、ホールもメーカーも罪を起こしていたことは明らかな状況でした。本来ならば警察はさらなる捜査・検査を行い罪を明らかにして検挙するべきところなのでしょうが、2015年11月からなぜか警察はこれ以上の調査をすることを止め、問題の解決を業界に自主的な取り組みにゆだねるような対応を取り始めます。こうした警察の態度を受けて、パチンコ業界側は2015年12月に業界6団体が共同で不正改造機の撤去を推進する声明というものを発表しました。

この声明は撤去の期限が明示されていないなど実効性で大きく問題があるものだったのですが、一応の形がついたことで議論が下火になりかけた2016年4月27日に、衆議院内閣委員会で民進党の高井たかし議員が警察庁に対して問題解決に向けて真摯に対応するように迫ります。これに対して当時の河野太郎国家公安委員会委員長が応える形で、業界に対してさらなる対応を迫り、2016年6月にパチンコ業界の14団体で構成する「パチンコ・パチスロ産業21世紀会」から年内の撤去を確約した声明が発表されて今に至ります。

2.警察庁の思惑とパチスロ業界のサブ基板制御問題

このようにやや不明瞭な形でこの不正改造問題は終わりを迎えようとしているのですが、このような問題処理の仕方でパチンコ業界の何が健全化されるのか、疑問は尽きません。いくつか疑問点をあげると

・遊技産業健全化推進機構の調査の時点では「全台が違法」の状態だったのに、撤去されるのはメーカーが指定した全体(300万台超)の1/5の72万台程度に過ぎないのはなぜか?
・そして不正に検定を突破したパチンコメーカーはなぜ罰せられないのか?
・同じく今に至るまでクギ曲げを続けているパチンコホールはなぜ罰せられないのか?
・そもそもなぜ警察は2015年11月の時点で、問題の解決を業界の自主対応に委ねたのか?

という具合で、警察のやっていることは入り口と出口がかみ合わずはっきり言って”チグハグ”です。これだけ見ると本当に意味不明に見えますが、ここに警察とパチスロ業界の動きをくわえて見るとまた別の風景が見えてきます。

パチンコ業界の不正クギ問題が発覚する前夜、パチスロ業界はパチスロ業界で「サブ基板制御問題」と呼ばれる大きな不正問題を抱えていました。

パチスロは本来、遊技の結果を左右する機能は密封された主基板に全て搭載しなければなりません。それを脱法的な形でサブ基板にまで出玉制御機能を拡大させてギャンブル性をあげる手法が2009年ごろからパチスロ業界で広まり始めました。サブ基板で出玉を制御するのは検定制度を骨抜きにする行為ですし、またサブ基板は密封されていないのでセキュリティも緩くゴト行為の対象になる可能性もありました。風営法施行規則第8条ではでは「容易に不正改造その他の変更が加えられるおそれのある遊技機」の設置は禁じられており、警察はサブ基板による出玉制御を当初から問題視していましたが、そのような状況の中でパチスロ業界を揺るがす疑惑が、以下の怪文書を通じて2012年に発覚します。

この疑惑とはパチスロメーカーがサブ基板にタイマー機能を仕込んでおいて、出荷してホールに設置したのちに出玉性能がアップするように仕込んでいるというものでした。これが本当ならば完全に「検定取り消し」処分もので、サミー、大都、などの大手メーカー五社が警察から厳重な注意を受けたといわれています。先ほど述べたようにこの問題は非常に不正クギ問題と似た性質のパチスロメーカーの業界ぐるみの不正だったのですが、この時も警察は業界を脅すのみで、結果として積極的な行政処分の措置を取りませんでした。

では具体的にはどうなったのかというと、ここでも「パチスロメーカーの健全化に向けた自主的な取り組み」により決着が図られることになりました。まず2014年6月に大手メーカーがサブ基板の入れ替えを実施することになり、9月にはパチスロメーカーの業界団体である日電協が自主規制を推進することになりました。そして新たな規格ではサブ基板による出玉制御を事実上禁止され、2016年末までにサブ基板で出玉比率を制御する問題機種を「高射幸性遊技機」として過半は撤去することが決まったという次第です。

ここまで来ると勘のいい方は理解できると思いますが、今回の一連のパチンコ不正クギ問題は、この警察庁のパチスロ業界に対する取締りの動きを後追う形で展開されたもので、パチンコ業界における「高射幸性遊技機」であるいわゆる「MAX機」を撤去するための方便として用いられたものでした。こうした観点で今回の結末を見ると、警察としては「2016年末を目処としたパチンコ・パチスロの高射幸性遊技機の撤去」という目標を概ね達成したことになります。

つまり、警察は不正クギ問題を通じてパチンコ業界に圧力をかけてMAX機を撤去させることが目標で、初めからパチンコ業界に本当の意味で「法律を守らせよう」というつもりはなかったのです。

不正クギに対する指摘は単に方便として用いられたにすぎず、それを長年の経験から理解している業界が阿吽の呼吸で応えて「MAX機を撤去する」という対応をとったわけで、表面的にチグハグに見える対応は実は絶妙なコンビネーションであったということです。

3. 警察とパチンコ業界の癒着とはいかなるものか?


このように初めから今回のパチンコ不正クギ問題は出来レースだったわけです。「ではなぜ撤去が2016年末だったのか?」、といいますとそれはおそらく「カジノ法案が成立する見込みだったから」なのでしょう。「カジノ法案が審議されればギャンブル依存症問題が国会・メディアで取り上げられ、当然パチンコに逆風が吹く。なのでそれまでに警察としてはパチンコ業界を取り締まるポーズをとっておく必要があった」ということだったのだろうと思います。

私は当初「ギャンブル依存症がこれだけ問題視されたことは無かったし、警察も今回は本気だろう」と思っていたので、この構造に気づいた時愕然としましたが、現実は現実として受け入れるしかありません。よく「警察とパチンコ業界が癒着している」ということが指摘されるわけですが、今回そのことの意味がようやくわかりました。

警察とパチンコ業界の癒着とは単純な利益供与のような分かりやすいものではなく、「警察がパチンコ業界にとって必要であり、パチンコ業界にとって警察が必要である」という関係を維持するための構造そのものを指すのです。

具体的には今回の二つの事例でも見られた、以下のような行動類型にその癒着関係が集約されています。

・警察はパチンコ業界の違法行為を把握してもほとんどの場合、警告するのみで罰しない

・ただし違法行為そのものをとりしまらずとも、パチンコ業界に対する社会的批判が高まりそうになると、表面的に「高射幸性」を問題として業界に一部機種の自主規制・撤去を迫り「禊(みそぎ)」の機会を与える

・パチンコ業界はこの「禊(みそぎ)」を経ることで世間的な批判を躱すことができるようになるが、違法行為自体は続けるので警察に弱みを握られている状況が続く

・このことにより警察はパチンコ業界にとっての唯一無二の「監督者」でもあり「守護者」でありつづけられる

・パチンコ業界は絶対的な存在である警察のご機嫌を伺わざるを得なくなり、天下りの受け入れや、調査・研究費用の負担を自主的にすることになる

警察には警察の主張があるのでしょうが、私はこのような警察とパチンコ業界の関係は極めて不適切だと考えています。日本は法治国家でありますから、今回の不正クギ問題においても本来問題とされるべきは「高射幸性」ではなく「違法性」なのです。「パチンコ業界の違法行為は見逃して、高射幸性を取り締まり、お互いのいびつな蜜月関係を確保する」という現在のパチンコ行政は癒着そのものと言っても過言でもないでしょう。

カジノ法案の審議が終わり、今後パチンコも含めた既存ギャンブル行政のあり方が再検討されることになるわけですが、果たしてこのようなパチンコと警察の関係が適切かどうか、再び考え直すような機会が来ているように思えます。そのことについてはまた日を変えてまとめたいと思います。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2016年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。