【更新】石破茂氏の「日本経済の伸びしろ」


20日のアゴラシンポジウムでは、自民党の石破茂氏をゲストに迎えて農業の可能性を考えた。その内容は木曜の夜8時からニコ生の「言論アリーナ」で放送するが、彼のキーノートのさわりを紹介しよう(3人も来ていた番記者の参考になるかもしれない)。

おもしろかったのは、彼が「インフレで長期的に成長することはできない」と明言したことだ。「短期的には景気がよくなったが、株価が上がっても成長率は上がらなかった」と暗にアベノミクスを批判し、「人口減少時代には、生産性を上げないと持続的な成長はできない」と対抗策を打ち出した。

その具体例として彼が出したのは「日本の農業輸出は年間8000億円しかない」という話だ。世界の農産物輸出は150兆円で世界のGDPの約1.5%だが、日本は0.15%しかない。これを世界平均にすれば8兆円ぐらいになるはずだ。つまり日本の農業には、あと7兆円以上の伸びしろがあるわけだ。

日本の非製造業の生産性は低いが、それは逆にいうとポテンシャルが大きいということだ。サービス業や建設業や流通業のように規制が多くて生産性の低い業種ほど、ポテンシャルな潜在成長率は大きい。もちろんpotentialは「潜在的」という意味なので、これは言葉としておかしいが、経済統計の潜在GDP(potential output)は前年の実績に生産性上昇を上乗せして決めるので、農業輸出の場合には8000億円のままだ。

これは経済学の定義とは違う。マクロ経済学では、潜在GDPは「インフレもデフレも起こらないGDP」という(一定の投資のもとでの)短期の均衡概念で、規制や税制を是正したら、潜在成長率はもっと高くなるかもしれない。このような長期のポテンシャルを考えると、伸びしろは生産性の低い産業ほど大きい。


主要国の労働生産性(米国=100)日本生産性本部

生産性の定義はむずかしく、いろいろ議論があるが、日本の労働生産性がG7諸国で最低だというのは共通に指摘される。図のように日本の労働生産性はアメリカの約60%で、サービス業ではアメリカの半分以下だから、2倍になるポテンシャルがあるわけだ。

生産性を上げるためには何が必要だろうか。これも農業がわかりやすい。遺伝子組み換え作物は、日本では輸入されているが栽培されていない。農水省は許可しているが、農協がいやがらせするので、農家が空気を読んで栽培しないのだ。技術はすでに存在し、生産性の上がるポテンシャルは大きい。空気を読まないことが、日本に必要な最大のイノベーションである。