クリスマスイブの本日、安倍首相と菅官房長官が都内で、橋下徹氏と松井一郎・日本維新の会代表と会談することになり、何を話し合うのか注目されている。オーソドックスな観測としては、カジノ法案が成立したことを受けたIR(総合型リゾート施設)の大阪誘致の件や、2025年の大阪万博誘致構想の件などだが、中には、橋下氏の民間枠での大臣登用まで取りざたする報道まである。東スポだが、侮るなかれ(笑)。政府関係者の談話を一応取っている。来年もまた橋下氏の去就を巡る報道が増えそうな予感がしている。
だが、橋下氏の政界復帰のような、雲をつかむような話題よりも、IRと並んで現実的なトピックがある。来夏の都議選に向けた小池新党と、どう対峙するのかという話だ。仮に話題になったとしても、密室で話したことの核心的な内容が即日、記者たちの耳に入ってくるはずはないだろうが、維新は先日、都議選での第一次候補者を発表しており、ここに来て都議会自民党との対決姿勢を強め、都議会公明党と歩み寄った小池氏と、維新がどのようなスタンスで選挙戦に臨むのか、安倍首相がそのことにどのような考えを持っているのか、私は関心を持っている。
維新と小池氏が繰り広げるチキンゲーム
ここまでのところ、維新サイドと小池氏サイドの関係は、ともに保守系政治家の改革勢力を自認していながら、橋下氏の小池塾講演の取りやめや、松井氏が「小池知事が何をやりたいのか、僕は今、あまり見えていない」と口撃するなど、ギクシャクしているように見える。
維新は “小池新党”と同じく組織的な後ろ盾はなく、ましてや東京での地の利があるとは言い難い(2013年都議選は橋下氏の慰安婦発言もあって苦戦。13、16年の参院選東京選挙区は候補者が落選している)。
もし小池新党が旗揚げした状態で、都議選になり、選挙協力することなしに戦うことになれば、その時の小池氏の人気次第で、お互いに票を食い合って自滅するか、中途半端に小池票を食うにとどまり「小池VS自民」バトルの蚊帳の外に置かれて惨敗するか−−等のシナリオが考えられる。
拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス新書)では情報戦の仕掛け合いを「世論ゲーム」と名付けたが、舌戦や挑発を繰り広げ、ある種のチキンゲームをやりながら、味方としての値打ちがあるのか値踏みしているのか、それともジャブを打ち続けてこのままノーガードの勝負になるのか。。。しかし、そうなれば維新も選挙のプロだから当然、つぶしあいになるのは承知している。だから側から見ると、率直な疑問が浮かぶ。
先日、ツイッターで「小池さんに対して『何をやりたいかちょっと見えない』て松井さんが仰るけど、それ、むしろそのままブーメランになりかねない」と書いたら、大阪在住の“狂信的”な維新支持者たちが、「維新が大阪で成果を出した改革のことを知らない東京の人間は黙ってろ」などと暴言を次々に吐いて絡んできた。はっきり言ってうざかった。
維新が、「府市合わせ」などと揶揄されたほど非効率だった大阪府・大阪市の広域行政の問題に取り組み、さらには身を切る改革として府議会の定数削減を2割実現した離れ業くらい知っている。選挙準備の仕事でも首都圏の維新系の候補者たちを何度か手伝ったこともある。
維新の都議選参戦には「大義」が必要
そもそも、維新はなぜいま都政に割り込んでこようとするのか。それを考える上で熱烈な大阪の維新信者たちも認めざるを得ない“不都合”なファクトが前段にある。都知事選では候補者を擁立していない。たとえば、かつての所属議員だった東国原英夫氏は、2011年の都知事選の事前調査で一時当選有力の結果が出て、当時の石原知事が勇退を撤回。2位になった実績がある。小池氏には敗れたかもしれないが、それなりの票は取れたはずだ。
参院選準備中に、急転直下、都知事選が行われることになり、余裕がなかったという言い分もあろうが、それならそれで推薦を出すという選択肢もあったはずだが、結局、見送った。そういう経緯があったから、なぜいま都政・都議会に進出して、何をやりたいのか、ただ議席を増やしたいわけではないことを都民に伝える必要がある。私が、維新の東京進出に際して「大義」が必要と指摘したのはそういうことだ。
それは私だけの問題意識ではない。維新を始め、第三極政党の政策を一定部分、評価してきたMy News Japanの渡邉正裕編集長も違和感を覚えているようだ。
小池潰しで官邸と気脈⁈憶測を一蹴できるか
つぶしあいを覚悟で挑む背景には、小池氏への不信感が根強いのだろうか。小池都政スタート直後、維新は小池氏が自民党籍を離れていないことから「パートナーとして信用できない」と見ていたという話を聞く。しかし、一方で、それと矛盾する衝撃的な説もある。これは、私の周囲で維新の内情を熟知する複数の知人たちの意見であると断りを入れた上でだが、維新が都議選に参戦する真の狙いは、「小池新党の足を引っ張ることにあり、官邸と気脈を通じているのではないか」というのだ。勝敗度外視でも安倍政権に「貸し」を作れるという読みなのだろう。
もちろん、仮に気脈を通じていたとしても、現場で戦う候補者たちは真剣であることには間違いないが、都議選候補者をお披露目した翌日(19日)の日経新聞朝刊では、その候補者発表ニュースとくっつく形で、維新と政権の「蜜月」を伝える記事が掲載されていた。そんな紙面を見てしまうと、ついあれこれと脳裏で憶測してしまう。
別に私は維新の掲げる政策は相対的に評価している(そうでなければ選挙を手伝ったりはしない)。橋下氏や松井氏も嫌いではない。なにより大阪の住民投票で、自民から共産まで全ての既成政党を敵に回しても互角の戦いを演じた剛勇はリスペクトしている。だからこそ、一都民としては、都知事選に参戦しなかったのに、東京に足場があるとは言えないのに、同じ改革勢力として小池新党と方向性は大同小異なのに、なぜ多数の候補者を擁立しようとするのか。都議会で目標の11議席を確保して議案提出権を得たら、どのような政策を打ち出し、小池都政のなにを評価しないのか、今後しっかり語ってくれるかどうか注目している(アゴラには柳ヶ瀬都議も執筆陣にいるのでエントリーを期待する)。
折しも、小池知事は2020年に向けた実行プランを発表した。これの問題点は何か?これとの差異は何か?そのあたりの考えを聞いてみたい。
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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで好評だった都知事選の歴史を振り返った連載の加筆、増補版も収録した。
アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。
2016年12月吉日 新田哲史 拝