大学理工学部での特許教育の抜本的改革提案 --- 鷲尾 裕之

寄稿

シャープの鴻海による買収は、今年の衝撃的なニュースだった。

さらに深刻なことは、シャープは特許出願には熱心で近年も多数の特許出願を行っていたことだ。
知的財産の専門家の論調は、シャープの凋落は、特許の側面から見ると技術のコモディティ化とする見解がみられる。

技術のコモディティ化とは、

(1)特許切れ技術で市場が満足できる製品が製造できる時期が訪れた
(2)権利があるあるいは、今後権利化できる特許では、価格が高く極めて高性能な市場的にはニッチな事業しか形成できない

とある。(書籍「特許戦略のススメ」鮫島正洋、小林誠著、日経BP社、参照)

本当にそれだけなのか?

事業を継続的に利益を上げるシステムのための質、すなわち特許出願件数だけでは議論できない戦略的な「陣取り合戦」が出来ていたのか。(特許は、物まね防止機能だけでなく「他社の将来実施したい技術をさせない」排除機能がある)

日本には、企業にも大学にも優れた知財の専門家がおり非常に緻密な現状分析と対策が議論され対策が講じられている。
それとのギャップが企業研究者の特許実務セミナーの現場で感じられるのだ。

現場では、技術分野の知識や経験のある優れた研究者がおり、私のセミナーの受講生としてお会いしている。
しかし、話してみてわかることは、総じて企業や大学で「研究者しか出来ない、企業が継続的に利益を上げるシステムづくり」のための教育を受けた形跡がみられない。

一般的に「知財部員が」、研究所に入り込み「主体的に」特許戦略を考え実行するべきといわれるが、私はそうは考えない。
その技術分野の過去の技術の発達過程や将来のトレンド、市場動向を最も知るのは研究者である。よって、「事業が継続的に利益を上げるためのシステム形成としての特許戦略」を考え「主体的に実行するのは研究者」であると考える。

現状、
「企業が継続的に利益を上げるための特許によるシステム形成」
が主体的にできる研究者が企業に充分育っているとは考えられない。

問題点は、「企業は今、経費節減のための社内での特許出願(代理人に依頼するより安価)で手一杯で、研究者への知財教育まで手が回らない」ことにもある。

今こそ、将来の日本企業の再興のために大学理工学系学部教育の改革が必要と考える。
この取り組みは、大学の産官学連携による大学の発明を利益につなげることのさらなる改善にもつながる。

今回は、企業の研究者向け特許実務セミナーの現場から生の声をあげてみた。
大学の理工系学部の知財教育のあり方について議論がさらに進むことを願っている。

 

鷲尾 裕之 企業研究者向け特許実務セミナー講師
ブログ:http://patentwashio.at.webry.info/