サウジ王族は耐乏時代にも浪費を続けている

岩瀬 昇
サウジ国王

サウジのサルマーン国王(Wikipediaより)

12月27日、今年最後の会合からの帰路、携帯でNYTの掲題記事を読み出し、危うく乗り越すところだった。非常に面白いのだ。サウジが現在抱えている問題を歴史的文脈の中に位置づけながら浮きぼりにしている。だが如何にも長いので、読み終えるのに時間がかかってしまった。原題は “Saudi royal family still spending in an age of austerity” となっている。ご興味のあるかたはぜひ原文をお読みください。掲載されている写真を眺めるだけでも面白いですよ。

筆者の関心は、王族の規模と維持に必要な費用水準にあるので、長文の中から関連のある箇所だけを紹介しておきたい。

・記事はモロッコのTangier発(サルマン国王が昨年、大西洋を見下ろす場所に新しい離宮を建設したところだ。書き出しが次のようになっている)。

・高い塀に囲まれ、多くの監視カメラとモロッコ人兵士に守られたサウジアラビア・サルマン国王の新しい、広大な王宮が昨年夏、太平洋に面した場所に建設された。サウジ政府は耐乏財政政策の一環として2,500億ドルの国内プロジェクトを中止したが、ここ休暇のための離宮では、真っ青なヘリポートや大勢の顧客をもてなすときに立てる大サーカスなみのテントを組むために、多くの労働者たちが忙しく働いている。

・サルマン国王は、いわば「アル・サウド会社(Al Saud Inc.)」の取締役会会長だ。低油価が、何千人もおり、増え続けている一族がぜいたくなライフスタイルを続けられるか、こらまで挑まれたことがない国家統治を維持できるかどうか、疑問を投げかけている。

・ドイツ在住の反体制派のKhalid bin Farhan al-Saud王子は「王族は維持しているが国民は使える金は減っている」「国王のみが決定権を持つ予算には現れない資金がたくさんある」という。

・王族の中には副皇太子が進めているアラムコのIPOに反対する人たちもいる。

・(The Economist記事にも引用されていた)Steffen Hortogは「サルマン国王の治世下(アブドラ前国王の時代に絞り込まれた)物質的特権を再び享受し始めている。核をなすAllowanceシステムは変更されていない」という。

・NYTは、王族の金遣いを把握するために、外交官、金庫番、エコノミスト、不動産屋、旅行代理店、インテリア・デザイナー、サウド家の使用人たちとのインタビューを行い、裁判所の記録や不動産関係書類を徹底的に調査した。

・王族の人数について、Joshph A. Kechichian (senior fellow at King Faisal Center for Research and Islamic Studies at Riyadh) は、12~15千人の王子がいる、としている。サウド元国王の娘であるPrincess Basman bint Saudは5年前に、15千人の王族がいると発言していた。文化情報省のスポークスマンであるAnes al-Qusayerは、サウド家には5千人以上はいない、としている。テキサスA&M大学のF. Gregory Gause Ⅲは「branchを刈り取るとの判断がなされるべき」と指摘する。

・王族の財政事情についてもっとも詳しい情報は、在リヤドの米国大使館が1996年にMinistry of Finance Office of Decisions and Rulesへのアクセスが許されたときに入手したものだろう。これによると、固定給はアブドラアジズ初代国王の息子たちの月額27万ドルから玄孫(やしゃご)の月額8千ドルだと公式文書が伝えている。何人かの王子たちはボーナス(結婚や王宮建設時)として1~3百万ドルのボーナスを受け取っている。5年前にWikileaksにより伝えられた情報によれば、公式の予測値(official estimate)では、400億ドルの国家予算のうち5%相当の20億ドルが王族へのallowanceとされている由。

・スポークスマンのQusayerによれば、現在のallowance総額は100億リヤル(27億ドル)を超えない、大部分は部族や地方の指導者たちに渡っている、としている。「サウジの社会ヒエラルキーを詳しい人たちは知っていることだが、何千人もの部族や地方の指導者たちが、自らが責任を持っている何十万人の人たちのために、直接あるいは間接的に資金を使用している」と。

・億万長者の投資家Alwaleed bin Talal王子はアメリカ大使に、100万BDの石油代金(50ドルで年間180億ドル)が国王と数人の長老たちの管理下にある予算外のプログラムに回されている、と話していた。匿名希望の王族のアドバイザーやアメリカ政府の元高官は「予算外のプログラムはいまでも存在している」という。一方、Qusayerは「アラムコの収入はすべて国家の財政に入っている」と主張する。

・アメリカ大使館の高官は「王族がこの国を “アル・サウド会社” と見ている限り、増加し続ける王子、王女たちはぜいたくな額の配当を受け取ることを生まれながらの権利とみており、折に触れ貯金箱に手を入れるものだ」と結論づけている。

・(王族の特権を相当程度削減した)アブドラ国王はアラブの春の時には、公務員の給料や社会保障として1,300億ドルを配り、サルマン国王は2015年1月の即位時に350億ドルのボーナスを公務員に支払っている。

・前国王の息子の一人の長老は匿名で「一族はいつも団結を求めている。だから少々不満であっても団結しようと努力するものだ」という。

・実際問題として、王制を批判することはリスクを伴う。サルマン国王即位後、海外在住の反体制派の3人の王子が姿を消している。彼らが反政府発言をしないように、サウジに引き戻されている、とみられている。(サウジのスポークスマンは、彼らは刑務所にいるわけでも自宅監禁されているわけではない、という)。

・(浪費の実例がいくつも紹介されているが、最近パリ等の海外に不動産を購入するケースが増えているが)資産保全という目的に加え、いざという時のオプション(海外移住?)を確保するためだ、と指摘する人もいる。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月28日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。