韓国・聯合ニュース(日本語版)1月1日付に興味深い記事が配信されていた。あの北朝鮮の独裁者、金正恩労働党委員長が慣例の「新年の辞」で異例の自己批判をしたというのだ。
同ニュースによると、金委員長は、「いつも気持ちだけで、能力が伴わないもどかしさと自責の中で、昨年1年を過ごした。今年は一層奮起し、全力で人民のために多くの仕事をする決心をした」と語ったという。「新年の辞」は国民向けという点を配慮したとしても、確かに独裁者の発言としては異例だ。
聯合ニュースは金委員長の「自責の念」発言を「新たなイメージ戦略」と穿った見方を紹介している。
そこで金正恩氏の自責発言を少し検証してみたい。金正恩氏の発言内容は、「気持ち」と「能力」の不一致から来る自責の念だ。やる気はあるが、能力がそれに伴わないというわけだ。受験に取り組んでいる多くの学生たちも同じような気持ちに陥ることがあるだろうから、金正恩氏の気持ちがひょとしたら理解できるのではないか。
もちろん、金正恩氏の「新年の辞」は自責で終わっていない。自責発言はあくまで付け足しで、同氏が主張したかった点は次に来る。聯合ニュースによると、金委員長は「主体朝鮮の国防力強化で画期的な転換が行われ、わが祖国はいかなる強敵も攻撃できない東方の核強国、軍事強国となった。核戦争の脅威に備えた初の水素弾(水爆)実験とさまざまな攻撃手段の発射実験、核弾頭爆発実験が成功裏に行われ、ICBMの発射実験が最終段階に達した」と説明している。
やる気と能力のアンバランスを嘆いた後は、自己の過去の実績をアピールしているわけだ。前口上が慎ましく、謙虚な内容だっただけに、その後の実績報告は自信に満ちたものだった。「新年の辞」が退屈な演説にならないように、金正恩氏は演説のトーンばかりか、その内容にも恣意的に変化つけるなど、工夫を凝らしたのだろう。
そして、韓国の朴槿恵大統領については、「同族対決に生きる道を見いだす朴槿恵のような反統一売国勢力を粉砕するため、全民族的闘争を行うべき」と檄を飛ばしている。いつもの金正恩節に戻っている。
「自責発言」について、もう少し突っ込んで考えたい。金正恩氏が演壇で頭を下げている瞬間が国営中央テレビ放送で放映されていた。最高指導者に就任して5年間で340人余りの党幹部、政府幹部を粛正してきた金正恩氏とは思えないシーンだ。
その場面は、東芝の会計粉飾問題で頭を下げる東芝最高幹部たちや親友、崔順実被告の国政介入事件で謝罪する朴大統領の姿と重なる。
金正恩氏は、西側の指導者たちが不正を追及され、弾劾された時、頭を下げて謝罪するシーンをきっと見てきたはずだ。会社や政府指導者がカメラの前で頭を下げて謝罪する姿をみて、多くの国民は一種のカタルシスを感じることも知っているはずだ。
金正恩氏が自責を表明し、少し頭を下げたのはその学習結果というべきだろう。金正恩氏は案外、学習能力が高い独裁者ではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。