枢機卿「欧州のイスラム化悪くない」

オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者、クリストフ・シェーンボルン枢機卿(71)は同国最大部数を誇る日刊紙「クローネン新聞」との新年インタビューに応じ、その中で、欧州のイスラム化について「欧州のイスラム化は悪くない。同時に、中東や北アフリカ地域が昔のように再びキリスト教化されることを願っている」と語っている。そして「イスラム教徒が欧州をイスラム化すると願ったとしても怒りを感じない」と付け足す。同インタビューは「枢機卿、イスラムは欧州を占拠するのか」と刺激的なタイトルがついている。

▲オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者、クリストフ・シェーンボルン枢機卿(ウィキぺディアから)

▲オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者、クリストフ・シェーンボルン枢機卿(ウィキぺディアから)

ウィーン市1区のオーストリアのカトリック教会の精神的中心シンボル、シュテファン大聖堂がイスラム寺院となるようなことがあればどうするか、という過激な質問に、「もちろん、シュテファン大聖堂が生き生きしたキリスト教徒の祈りの聖所であり続けることを願う。大聖堂が観光名所だけに留まらないことを願う。いずれにしても、オーストリア国内には既に200カ所のイスラム祈祷施設がある。宗教は他宗教を競争相手と感じるのは昔からそうだ」という。

シェーンボルン枢機卿の真価は次の答えだ。「欧州のイスラム化を懸念する声を聞くが、ナンセンスだ。欧州がキリスト教社会に留まるために何も努力せずにイスラム化を懸念したとしても意味がない」という。そして「例えば、オランダでは教会に信者が来なくなったために、教会の建物がショッピング・センターになったりしている」と指摘する。ちなみに、シェーンボルン枢機卿管轄のウィーン大教区でも数カ所のカトリック教会の建物がセルビア正教会に渡っている。

「問題は、欧州社会がキリスト教の価値観に基づく社会を願っているかどうかだ。教会よりショッピングモールの方が重要と考えるならば、欧州の非キリスト教化は驚くに値しない。イスラム寺院に多くの信者が集まり、キリスト教会には信者がいないとすれば、欧州のイスラム化といって批判することはできない。欧州のキリスト教社会を維持するために十分な努力をしなかったわれわれ自身を批判しなければならない」という。

実際、欧州の非キリスト教化は、「神はいない運動」からクリスマス市場を「冬の市場」へと名称変更する動きなど、想像を超えるテンポで進んでいる。政教分離という名目でキリスト教のシンボルを公的機関から追放する動きは活発だ。その一方、昔はキリスト教圏だった中東地域でキリスト信者への迫害が進んでいる。イラクでは2003年のイラク戦争前までは約100万人のキリスト教徒がいたが、現在はまったく存在しなくなった。イラクのキリスト教の拠点だった同国北部のモスル市では、キリスト者たちは拉致されたり、殺されたりしている。欧州の非キリスト教化が進む一方、中東・北アフリカでは少数宗派のキリスト教徒が迫害を受けているわけだ。

一方、欧州では殺到するイスラム系難民・移民に直面し、欧州のイスラム化を恐れる声が高まり、イスラムフォビアが席巻してきたが、キリスト教信者の教会離れは年々加速化してきている。

シェーンボルン枢機卿は、「欧州のイスラム化は結局はキリスト教社会がキリスト教の価値観、伝統からかけ離れてしまった結果だ」と警告を発し、「欧州のイスラム化を批判する権利はわれわれにはない」と強調している。ローマ・カトリック教会高位聖職者の発言はまったく「正論」だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。