パワハラと逆パワハラ〜がんばれ管理職

荘司 雅彦

パワハラ (写真AC)

司法修習時代にお世話になった(当時の)有能な法律事務所職員さんの勧めで「ノンママ白書」という番組を、昨年観ていました。

鈴木保奈美さんが演じる広告代理店初の女性部長が主役です。
本部長と部下の間で板挟みになって辛い思いをする場面が多いのですが、日本の中間管理職(主に課長クラス)の悩みがリアルに出ていました。

その番組で「パワハラ」と「逆パワハラ」という用語が出てきたので、元事務職員さんに「人格非難をするのがパワハラで…」とLINEで説明したのですが、説明が下手だったため「難しいですね」と一言で切り捨てられました(汗)

有能な元法律事務職員さんに伝わらないのだから、一般の方々にも伝わらないだろうなあと反省したので、今回は具体例を交えてご説明します。

パワハラと教育的指導の境界線は極めて曖昧です。
当然のことながら、上司の言動に関して部下はパワハラだと主張し、上司は教育的指導だと主張します。それを区別する一つの明確な指標は、先ほど述べた「人格非難に当たるか否か」という点です。

例えば、部下が書いたお客様に配布するレポートを、「小学生が書いたような文章だ!書き直せ!」と叱ると、「お前は小学生レベルだ」という人格非難になるのでパワハラの範疇に入りそうです。

ところが「もう少し専門用語を使い、一つ一つの文章を短くしないとお客様に読んでもらえないぞ!」と叱ると教育的指導の範疇に入りそうです。

もう一つ例を挙げてみましょう。「そんな挨拶しかできないなんてバカじゃないのか!」はパワハラで「きちんと挨拶できないのはお客様に対して失礼だ!」は教育的指導になるでしょう。ここでも、パワハラ表現には「お前はバカだから」という人格非難が入っていますね。

もうおわかりですよね。「人格非難」というのは「お前はバカだ」「お前は低レベルだ」「お前は常識がない」などというふうに、「部下その人」を「主語」にして「述語」に「非難的表現」が入る文章に変えることができるのです。

逆に、教育的指導の「主語」は「この文章」や「先ほどの挨拶」というふうに「物や行為」となるのです。「その人」を責めれば人格非難、「その行為」を責めれば教育的指導と区別してもわかりやすいと思います。

もちろん、この公式ですべてが解決するものではありません。内容自体は「行為」を責めているものであっても、単に責めまくるだけで「どの点が悪いのか」「どの点を完全すべきか」を全く指摘しないのは指導として不十分でしょう。

また、表現方法や場所などを総合的に斟酌して陰湿なパワハラになる場合もあります。部の同僚みんなが見ている前で「この文章は長すぎる!それに接続詞の使い方も間違っている!!お客様に読ませるのは失礼だろう!」と、細かな点をいちいち挙げつらって無意味なまでに延々と叱るのは、見せしめ的なパワハラと判断されることがあるでしょう。

逆パワハラも職場によっては散見されます。
気が弱くて部下から舐められている上司の指示や命令を、わざと無視したり忘れたフリをする部下の行為は立派な「逆パワハラ」でしょう。また、「課長って奥さんに頭が上がらないんだってぇ。婿養子だから〜」というような噂話を本人にわざと聞こえるように話す悪質な上司イジメもあるようです。

弱腰の学校の先生が生徒たちにイジメられるのと何となく似ていますよね。

逆パワハラの対処法としては、上司の持っている伝家の宝刀「業務命令」を上手に使うことです。同レベルで張り合っても「多勢に無勢」で勝ち目はありません。
下手(したて)に出て仲良くしようとするとさらに舐められる恐れもあります。

正当な業務命令に違反した部下は懲戒処分にすることもできるのです。「職場内での余計な私語は禁止する。これは業務命令だ。私の噂話をしたいのなら社外でやりなさい」というくらいのドスは効かせてもいいんじゃないでしょうか?

暗に「俺にはお前たちの人事考課を判断する権限があるんだ」と匂わせるのも一つの方法でしょう。

自分がトップになっている職場ではとかく孤立しがちな管理職。誰がなってもみんな同じ苦労があるのです。くじけずにがんばりましょうね。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。