観光客を倍増させるだけでは、日本は「観光立国」になれない

内藤 忍

2016年の年間訪日外国人観光客数は2400万人と過去最高になったそうです。1年前と比較しても約2割の増加で、ここ5年間連続で増えているということで、観光に対する期待が高まっています。

政府は目標として、2020年に外国人観光客4000万人という数値を掲げていますが、観光立国を目指すのであれば、目標にすべきは観光客数ではなく、外国人が日本で観光に消費してくれる金額を高めていくべきです。そのためには、「客単価」の高い観光客を誘致すること、そして長期間滞在したいと思わせる場所にしていくことです。

デビットアトキンソン氏の「新・観光立国論」(写真)も指摘していますが、日本の観光産業の弱みは長期滞在型になっていないことです。

同書で紹介されていますが、例えば奈良のような世界に誇る観光資源に溢れた場所であっても、ホテルが少なく、観光資源を有効に活用できていないため、多くの観光客が日帰りで帰ってしまう。そのために地元にお金が落ちないので、観光地として魅力を高めるための投資ができないという悪循環になっているのです。

長期滞在に必要なのがバリエーションに富んだ宿泊施設です。今後観光客が増えてくれば、宿泊施設が不足するのは明らかです。最近も大阪や福岡では観光シーズンになると外国人観光客が大量に宿泊するため、出張者のホテルの確保が大変という話を聞きます。

ホテルの数の問題だけではなく、観光で重要なのは施設の選択肢が広いことです。

東京で最近人気の簡易宿所(ホステル)は3000円程度の宿泊料金でベッド1つというドミトリーのような施設ですが、出張者や外国人バックパッカーに人気だそうです。人気の理由は価格だけではなく、そこに面白い人たちが集まってきて、コミュニケーションが取れるからだそうです。1階に居酒屋やバーがあって、年齢や国籍に関係なくインターナショナルな雰囲気の中で、おでんや焼き鳥といった日本の文化に触れることができる。

逆に、リッツカールトンやアマンといった高級ホテルを超えるような1泊数百万円といった超高級ホテルも日本には不足しています。

1泊数千円から数百万円まで。和風から洋風、都市型からリゾート型というようにたくさんのチョイスがあることが観光客にとっては楽しく、観光地としての魅力を高めてくれるのです。

ホテルの数の不足とバリエーションの不足という「2つの不足」から、必要なのは宿泊施設に関する規制の緩和です。民泊に関しては旅館ホテルの既存業界からの反発で規制緩和が後退しています。安全性への配慮は重要ですが、昔作られたままの意味のない規制が残っているのも事実です。

素晴らしい観光資源を有効活用できていない日本が観光に力を入れるのは正しい方向です。しかし、その方法については、もう少し戦略的に考えた方が良いと思います。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。