厄介な交渉ごとを瞬時に解決するコツ

私はかつてSBI大学院大学で「交渉術」を教えていました。
幸い学生諸氏には好評を博し、様々な観点から「交渉」というものを教授してきたのですが、敢えて何かひとつだけと問われれば次の例でありましょう。

他人から迷惑を受けている人の多くは、迷惑の張本人とは話をしたがらないものです。その理由は次の2点だと言われています。
第一の理由は、人間は利害が対立する相手の人間と直接対峙することに不快感を感じるということです。
もうひとつの理由は、人間は問題解決のために金銭を支払うことを嫌う傾向があるということです。

例えば、マンションのあなたの隣の部屋に暇な大学生が住んでいて友人たちと馬鹿騒ぎをしているとしましょう。
我慢できないほどであれば別ですが、なかなかクレームを言いに行くのは勇気がいりますよね。
「逆ギレ」でもされたらかなわないという不安もあります(実際、数年前、私は丁重に注意しに行ったのに「逆ギレ」されたという経験があります。相手は大学生ではありませんでしたが・・・)。

また、「3万円支払うから、馬鹿騒ぎは12時でお開きにして欲しい」とあなたが申し込んだ場合、あなたは何でも金銭で解決しようとする卑しい人間だと思われてしまうかもしれないし、隣の大学生は侮辱を受けたと感じるかもしれません。

以前、コースの理論をご説明した際、煤煙を出す工場とクリーニング店の間の関係について、(取引費用がゼロであれば)金銭の授受によって利害調整ができると書きました。

最もわかり易い例として、工場を経営する会社の経営者とクリーニング店の店主が結婚したと仮定し、二人の合計で最大の利益が出るように調整すればいいと。

ところが、相手方と直接対峙することが不愉快で金銭解決を持ちかけるのも嫌だとなると、そもそも交渉が開始されません。騒音や煤煙といった「負の外部性」を交渉で解決することが極めて困難になります。

あなたとしては、明日の早朝に重要な仕事があるので「12時までに静謐を取り戻すことに」少なくとも5万円の価値を置いており、学生たちとしては12時以降は近くのカラオケ店に行けばいいので、場所を移動する手間を考えても「12時までに場所を移動するコスト」として2万円貰えれば儲けものだと考えています。

論理的に考えれば、あなたが学生に3万円支払えば、双方ハッピーになれるはずです。あなたとしては5万円の価値を3万円で買うことができるし、学生たちとしては2万円のコストに対して3万円の支払いを受けることができるからです。

しかし、先ほど述べたように論理的な解決ができないのが人間の性(さが)。はたしてこのような場合、あなたとしてはどう対処すべきなのでしょう?マンションの管理人さんも不在です。警察も普通の近隣騒音くらいでは来てくれません。

ブチ切れて包丁を持ち出す前に、私からのアドバイスを試してみてください。

方法はいたって簡単、相手の感情を揺り動かすのです。
「お楽しみ中申し訳ないけど、できるだけ早めに切り上げてくれませんか?小学生の娘が熱を出して苦しんでいるんです。うちの勝手なお願いなので3万円をカンパしますので、どこか別の場所に移動してもらえませんか?」と、相手の情に訴えるのです。
もしあなたが一人暮らしだと相手が知っていたら、あなたが熱を出したことにすればいいのです。

ほとんどの人間は、幼い子どもや病人という弱者をいたわりたいという気持ちを持っています。その美しい気持ちにダイレクトに訴えかけるのです。
お金を渡すのも「カンパ」にしておけば、学生諸君も受け取りやすいでしょう。多くの場合、「いえいえカンパは結構です」と遠慮するでしょう。

間違っても「お前たち暇な学生と違って俺には仕事があるんだ!静かにしないと承知しないぞ!」と怒鳴り込まないことです。

一晩中騒がれる可能性が限りなく高くなるだけですから…^_^;


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。