バチカン放送独語電子版によると、新年明けと共にバチカン法王庁のサンピエトロ広場に近い場所に「マクドナルド店」が開店した。当方はこの欄で「“ハンバーガー”論争に沸くバチカン」(2016年10月19日参考)というタイトルのコラムを書いたばかりだ。思い出してもらうために、そのさわり部分を紹介する。
「世界最小国家、バチカン市国に近接した教会所有のパラッツォ(大型建物)で米ファーストフードの大手、マクドナルド店が開店される。計画では来年初めには開店予定だ。ハンバーガーが大好きな若者や旅行者には朗報だが、老人人口が多いバチカン関係者ではどうやらそうではないようだ」
いずれにしても「マクドナルド」は開店した。これで反対派も敗北を認め、鎮まるだろうと考えていたが、そうではないのだ。「マクドナルド開店反対」「バチカンはマクドナルドとの間の契約を破棄せよ」といった声が依然、サンピエトロ広場で響き渡っているのだ。
状況は次第に左派の反政府運動のような様相を帯びてきた。反対派は「ファーストフードは健康に良くないことは誰でも知っている。バチカンが旅行者にそれを提供することはどうだろうか。質的にもローマの伝統的食事と比較すると、かなり落ちる」といったものだ。
イタリアのメディア報道によると、「マクドナルド」が入るパラッツォの上階には多くの枢機卿が住んでいる。その中の一人がフランシスコ法王に苦情の書簡を送ったことから、ハンバーガー論争が外部に流れたというわけだ。反対派の正体は高齢枢機卿たちだ。自分たちが住むアパートメントの下で「マクドナルド」が開店されれば、若者たちが遅くまで屯し、周辺がうるさくなる、といった懸念があるからだろう。
バチカンの不動産管理会社(Apsa)のDomenico Calcagno枢機卿は「マグドナルドの店舗開店は何もネガティブなことはない。賃貸契約は法に基づいて締結されている」という。538平方メートルの店舗賃貸契約でバチカンは月3万ユーロが入る。本来は全く問題がないはずだ。
ところで、“バチカンの声”でもあるバチカン放送はなぜか「マクドナルド」開店騒動に拘っている。当方が知っている限りでもこれまで3回、「マクドナルド騒動」に関する記事を発信している。決して神学論争ではないのにだ。
世界最大のキリスト教宗派、ローマ・カトリック教会の総本山、バチカンには「マクドナルド」開店問題以外に重要なテーマがないのだろうか。年々、信者は教会から離れ、聖職者不足も深刻だ、聖職者の未成年者への性的虐待問題もまだ解決していない。「マクドナルド」開店反対で熱を挙げている時ではないはずだ。
バチカン放送は11日、バチカンの大聖堂を背景に「マクドナルド」のロゴ「M」を映したロイター通信の写真を掲載している。タイトルは「バチカンのマクドナルド店がホームレスに食事を提供」というのだ。すなわち、「マクドナルド」開店支持派が慈善活動を絡ませて反対派懐柔の作戦に出てきたわけだ。記事の概要を紹介する。
「マクドナルド店で来週から毎月曜日、1000人分のダブル・チーズバーガー、リンゴ、そしてミネラルウォーターをホームレスに配給する」というのだ。提供は慈善団体とバチカン関係者が支援する」
「マクドナルド店」の上階に住む高位聖職者たちがどのような反応を示すか、興味深い。
最後となったが、バチカン放送が「マクドナルド」開店関連記事を頻繁に報じる背景には、、米社会のファーストフード文化への批判云々といった高尚な文明論があるのではなく、高齢の枢機卿たちの頑迷さと傲慢さを浮き彫りにする狙いがあるのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。