アルプスの小国オーストリアの昨年の難民申請者数は4万2073人で前年(8万8340人)比で52・4%急減した。
ヴォルフガング・ソボトカ内相は、「難民申請者数は高レベルだ。難民が記録的に殺到した2015年比では急減したが、2014年比では49・9%増を記録しているからだ。13年比(1万7503人)では140・4%の大幅な増加だ。難民申請者の出身国別では、昨年はアフガニスタン、シリア、イラク、パキスタン、そしてイランからが多い」という。
昨年の難民申請者4万2073人のうち、正式なな難民申請が認められた数は2万7254人で全体の64・8%に当たる。1万4819人は昨年難民申請の認可を得られず、2017年に延期された。
1万2987人はダブリン条約に基づき、難民が最初に欧州連合(EU)の域内に入国した国で申請しなければならないケースで、該当国と協議が進行中のケースだ。1832人は様々な理由から申請がまだ認可されなかった。
ダブリン条約では、「難民が初めて土を踏んだ欧州の条約加盟国が責任をもって難民審査を実施する」となっているが、実際は同条約は加盟国で無視されてきている。具体的には、シェンゲン協定の域外国境線に位置するイタリア、ギリシャ、ハンガリーでは殺到する移民や難民の登録が実施されず、彼らを他の欧州諸国に送り出すケースが多い。
2015年に難民申請され、昨年申請が認可された件数は8776人だ。1万0677人は昨年、オーストリアから出国した。5797人は自由意志で、4880人は強制的に出国させられた。そのうち、2582人はダブリン条約の加盟国に、2298人はその他の国に強制的に出国させられている。
ところで、オーストリアで来年秋、連邦議会選が実施されるが、今年年内に早期総選挙が実施される可能性が予想されている。それを受け、ケルン首相の与党「社会民主党」は既に選挙態勢に乗り出してきている一方、政権パートナーの国民党も党内の結束を強めてきている。野党第1党の極右派「自由党」も第1党を目指し、ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首を首相に、という目標を掲げている。ちなみに、複数の世論調査では、自由党が30%以上の支持率で与党社民党と国民党を引き離してトップを走っている。
総選挙では難民政策が焦点の一つだ。国民党のホープ、セバスチャン・クルツ外相は難民受け入れ政策では強硬派の「自由党」路線に似てきた。トルコのEU加盟問題でも同外相はEU外相の中で唯一、加盟交渉の停止を要求する一方、難民・移民の統合問題でも「公共施設でのイスラム教女性職員(公務員、教師など)のスカーフ着用禁止」案を統合協定に導入したい意向を表明するなど、強硬姿勢を見せてきている。
隣国ドイツで9月、連邦議会選挙が実施されるが、難民歓迎政策を実施し、国内で批判の声があったメルケル首相が率いる与党「キリスト教民主同盟」(CDU)が第1党をキープし、メルケル首相の4選を果たすかどうかは、オーストリアの連邦議会選に影響を与えることは必至だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。