遂にその時がやって参りました。
製造業の復活を目指すトランプ次期大統領が、ドル高を歓迎するはずはないですよね。就任式まであと1週間を切るなかウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のインタビューにて、、人民元に対し「ドルは強過ぎだ。我々に甚大な打撃を与えている(Our currency is too strong. And it’s killing us)」と発言。さらに人民元は「石のように転がり落ち」ており、元買い・ドル売り介入は「我々を怒らせたくない」ために実施しているに過ぎないと口撃しました。
17日にはトランプ政権移行チームの一人で経済顧問でスカイブリッジ・キャピタルの創設者、アンソニー・スカラムッチ氏も、世界経済フォーラム(WEF)でドル高に「注意を払わなければならない(have to be careful about a rising)」と言及。合わせて米国の成長が加速すればドル高を招くものの世界成長を下支えると楽観的なコメントも寄せたとはいえ、ドル円は約1ヵ月半ぶりに113円割れを迎えたものです。
ドル円は200日移動平均線を割り込み、米大統領選挙後の上昇分を削る動き継続か。
習金平主席がダボス会議に初参加し演説するタイミングで、この仕打ち。ドル高牽制は習主席の一面トップを奪う動きは、まるでトランプ陣営が計算したかのようです。スカラムラッチ氏はさすがに習主席と同じ空気を吸う距離にいるだけあってマイルドでしたが・・。当の習主席は、スピーチで反グローバルの立場を強調しました。保護主義に傾くトランプ陣営に対し暗に警鐘を鳴らした格好です。
トランプ次期大統領のインタビューに話を戻して。注目の国境税(国境調整)については、ポール・ライアン米下院議長と9日に協議したばかりにも関わらず「複雑過ぎる(too complicated)」と一刀両断する始末。確かに輸入品に依存する企業例えば小売業の税負担が増大し、折角かけた国境税が輸出で還付されるならば抜け道を作りかねず、「単純で分かりやすい(nice and simple)」とは言い難いですものね。とはいえ、ハーバード大学のフェルドシュタイン教授がWSJ紙に寄せたコラムで成立すればドル高は「自動的に」20~25%上昇すると試算していただけに、国境税への期待が剥落しドル安を招きました。
ちなみに税制は議会が所管するものの、関税をめぐり米大統領が賦課できるケースは2つあります。
1)国家安全保障上の問題、並びに不公平な貿易慣行を強いられた場合
→通商拡大法(Trade Expansion Act、1962年成立)の232(b)条では国家安全保障上の問題が生じた場合、通商法(Trade Act、1974年成立)の 301条では不当な貿易を米国に強いた場合において、関税の賦課が可能。また同法122条では、貿易赤字が膨大な水準に及ぶ場合に国際収支をバランスする目的で150日間にわたって調査なしに15%の関税を賦課できると規定。
2)緊急時の経済制裁、輸出入の制限措置
→敵国通商禁止法(Trading with the Enemy Act 1917年)、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act 1977年)など。ただし当該国はキューバやイランなど、その名の通り制裁国への対応であり通商関係を結ぶメキシコや中国では扱う公算は極めて小さい。
いずれの前提条件をクリアするハードルは非常に高い。何はともあれ、トランプ次期大統領は、他ならぬ自身の言葉でトランプ・トレード(米株買い・ドル買い・米債売り)にダメージを与えてしまいました。
一方、メイ英首相は事前報道通り欧州連合(EU)の完全離脱というカードを切りました。部分的な残留でEU域内での人、モノ、資本、サービスの自由化の利点を享受する手段を選ばず、移民の流入制限を優先する選択肢を採用し通商関係は自由貿易協定でカバーする方針です。シティからのオフィス移転が取り沙汰され米株市場でも金融株を直撃し、S&P500の10セクター別動向では金融株が2.28%と一人負けでした。
(カバー写真:Nic McPhee/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年1月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。