神谷匠蔵さんの「なぜ韓国だけが他のどの国よりも『反日』なのか」がたいへん好評なようなので、それに対する論評を著してアゴラ読者の参考に供したい。「反論」とタイトルを書いたが、別にすべてにわたって反対なわけではない。ただ、神谷氏が引用しているケリー氏は必ずしも歴史について十分な知識をもっているわけでなさそうなので、「誤解だらけの「韓国史の真実」(イースト新書)の著者として誤りとか問題点を指摘しておきたくなった。
神谷氏はケリー氏という韓国在住の米国人の書いた第三者的な論文で書かれた韓国人の日本に対する嫌悪感情(彼はこれをAnti-Japanismと呼んでいる)の異常性を指摘し、この異常事態がなぜ生じているのかを淡々と論じているのを紹介している。そこでとくに断らない限りはカギ括弧でくくっているのはケリー氏の見解だ。ただし、短縮要約している。
「韓国の民衆及びエリート層はともに日本に対して常軌を逸した、そして否定的な執着を持っている。」
「韓国メディアの報道は客観性はほとんどなく、またそこでは否定的な言辞が多用される。輸出市場獲得を争う打ち負かすべき競争相手、アメリカの注目をめぐって争うライバル、全く反省の色を示さない植民地主義者として、韓流ブームに便乗する消費者として、アジアを征服する時を今か今かと待ち構えている軍事帝国主義者として、などだ。」
「韓国が竹島に異常に執着していることや、韓国の独立記念日には子供達が日本軍を模した人形に水鉄砲を撃ったりすること」
上記の現状認識は誰も異論がないだろう。もちろん、行間に、あるいは、言葉の裏に冷静な分析があることがある。最近では、安倍首相を世界でもっとも称賛しているのは韓国のマスコミかもしれない。朴槿恵が安倍首相にやられっぱなしだという形で口惜しがるさまは、日本の野党的マスコミの描く失敗続きの安倍外交やアベノミクスと正反対だ。
「韓国のナショナリズムは常に何かの否定として現れるが、特に日本の否定によって特徴づけられ、北朝鮮の否定としては現れない。私の仮説では、北朝鮮が見事に韓国のナショナリストの言説を操作しているために韓国側が北朝鮮に敵対する形で自己を規定できないからである」
「北朝鮮がマルクス主義などといった西欧由来の思想よりも、主体思想に基づいて朝鮮民族の優越性を基礎とする自民族優越主義を基調としたイデオロギーによって成り立っている」
「韓国は北朝鮮に比べて朝鮮民族としての純粋性という点で劣らざるを得ない」
「日本人でさえもリベラル派は文句を言わないどころか韓国人の反日感情を真に受けて謝罪にとどまらず賠償までしてしまう。そうであるなら、急速に進む西欧化、グローバル化の中でアイデンティティを失いつつある韓国人にとって反日イデオロギーほど便利なものはない」
韓国・朝鮮国家は複雑なルーツ論をもっている。つまり、客観的にみれば、そのルーツは新羅が唐によって滅亡させられ併合された百済の領土の全部と高句麗の領土のうちの一部を併合してニアリー朝鮮統一国家を創設したことにある。しかし、その後継国家である高麗は、高句麗遺民によって建てられた国家であるので、どっちがルーツともいえない。しかも、高句麗は隋とも対抗し撃退した大国であるが、新羅は日本に服属していた、場合によっては日本人によって建てられたかもしれない冴えない国家であると日本人から見なされており、韓国人も本当はそれに一理ある事を知っている。そして、高句麗の前に満州から北朝鮮にかけて存在した箕子朝鮮や衛氏朝鮮という漢民族が建てた国や、中世に生じた伝説とみられる壇君という四千年前の王者の民間伝承まで正史化して、これを国家のルーツとしている。この文脈では北朝鮮こそ正統派の朝鮮民族になってしまう。
また、北朝鮮がかつて非同盟諸国のリーダー的存在だったとか、現在でも核武装に成功しているということは、ケリー氏はあまり意識してない。つまり、ケリー氏は「純粋性」を強調しているが、韓国民が北朝鮮を畏怖しているのは政治的優位性、国際的地位の高さなのであると私は理解している。
「つまり韓国人は日本のリベラルのように愛国心や民族的プライドなど失ってなんぼと開き直ることもできず、かといって北朝鮮のように経済的利益を犠牲にしてまで民族主義を徹底することには躊躇し、そんな自己に対して道義的負い目を感じつつもそれを反日という形でしか表現できない実に憐れむべき状態にあるとのことだ。」
これはその通りだ。
「そうだとするならこれは日本にとっては迷惑千万な話である。たとえ日本が韓国に謝罪と賠償を永久に続けて、教科書から何から全て韓国様の仰せの通りに書き換えたところで、彼らが反日化している原因が実は日本そのものにあるのではなく、韓国人の北朝鮮に対する劣等感に端を発するのだから、韓国の反日姿勢は韓国人自身が変わらない限り一向に改善しないだろう。」
ケリー氏は北朝鮮がらみで韓国民の反日感情をとらえすぎだ。それは、おそらく、日韓併合や日本の朝鮮統治に対する韓国民の怒りの強さが合理的に理解できるものでないからだろう。日韓併合は、アメリカを初めとする世界各国が世界平和のために有益であると評価する強い支持のもとで行われた。もちろん、戦後的な価値観では、いかなる理由があろうとも、強制とまではいわなくとも強い圧力をかけての国家併合は許されない。それはアメリカ人でも認めるだろうが、韓国人が思っているほど非常識でも悪辣とは客観的に思えるはずがない。
また、日本統治についても、それほど強権的でもなければ略奪的でないし、韓国社会の近代化や経済的発展に大きな寄与をしたことは当時のアメリカ人も認めていたし、今日において振り返ってもそうだろう。したがって、当時の悪い思い出が反日の原因とアメリカ人にとって理解できないのは当然だ。
それなら、どうして、かくも韓国人は旧宗主国に対する普通のレベルを超えて反日なのかといえば、いくつかある。第一は、統治期間が35年と比較的短かったからだ。台湾は50年だが、10歳のこどもが60歳になり、社会の支配層がすべて日本の教育を受けたものになった。ところが、35年だから支配層が完全に入れ替わっていない。
第二には、日本の統治が庶民には利益があっても両班などの利益には相反していたことだ。これは、内地における不平士族と同じだ。イギリスなどは現地支配層を手なずける方針だったので安定したがその反対だ。
第三は内地化するかわりに平等にするか、独自性を尊重するが差別をするかの方針はゆれたし、どちらの動きしても不満が出る。当初は後者だったが、3.1運動(1918年)からは前者に転じ、戦時中になると参政権を認め徴兵もし教育も日本語でするという路線になった。創氏改名もそのなかで行われた。ちなみに、3.1事件当時の首相は南部藩出身の原敬で、彼は戊辰戦争の反政府軍側と同じようなものだとして朝鮮人の皇民化、日本人化をめざしていた。
そして、第四は戦後、アメリカが李承晩という李王家の末流で両班出身、日本統治時代に一度も帰国していない札付きの反日で封建思想の持ち主を統治者に据えたことだ。もし、日本統治下で育ちつつあった官僚や軍人を中心にしたら、少なくとも欧米の国の植民地と比べての特殊性はなかったはずだ。
第五は、戦後、韓国では古代史では日本より半島が優位で日本支配などない、近現代史では日本が何から何まで悪いという空想的歴史観が支配的になり、しかも、エスカレートしている。それに対して、日本側ではそれに客観的検証なく迎合する「変態」としかいいようがない自虐史観が有力になり教科書などもそれに従って書かれるという異常事態がある。このために、韓国の空想的歴史観は日本側からの反論されないままどんどんエスカレートして反日的になっていく。
第六に親日的言動は厳しく刑事罰や社会的抹消を受ける可能性がある。慰安婦問題の取り上げ方に行きすぎと言っただけで訴えられたり、日本統治時代はよかったと老人がつぶやいたら殺されたりという現実がある。このために、身を守るために良心を捨ててでも反日的言動を強いられるのが現状だ。
「現実に韓国を脱反日化するには結局南北朝鮮の統一しかないのかもしれないが、日本側も反日が韓国にとってのoptimal choiceであるという状況をいつまでも許すつもりはないとはっきり示すべきだろう。その意味で安倍政権の今回の対応は実に正しい。いずれにせよ、真に日韓関係を改善したいのであればリベラル派は自虐史観のみに囚われるのではなく、こうした冷静な第三者の意見を少しくらいは参考にすべきではないだろうか」
これは正しい。ただし、統一されたら改善されるとは思わないが。