パーミアン地域が米シェール産業を支配している

一昨日(1月18日)弊ブログ「#306エクソンモービル:米シェールで大きな賭け」で紹介した記事を書いたFTのEd Crooksが専門的なことを含め、さらなる解説記事を書いている。“’Permania’ grips the US shale industry” (around 20:00 Jan 19, 2017 Tokyo time)というタイトルだ。

世界の石油生産量の数%でしかない米シェールオイルだが、すべてが同じ可能性を持っているものではなく、見えない地下の地質状態により多種多様であることが分かるいい記事だ。

原文は長いので、例により筆者の興味関心に従い、記事要点を次のとおり紹介しておこう。

・今では「パーマニア(Permania)」と呼ばれているが、石油開発業界の掘削、生産、そしてM&A取引の熱い地域となっている。

・今週合わせると100億ドルに相当するM&A取引が成立しているが、パーミアン地域の資産は、米国で石油生産量を増やしたい会社にとって最も追求すべきものとなっている。

・資産価値は買い上げられており、持続可能性を疑問視する向きもある。

・ダラス連邦準備銀行が最近行った調査によると「バブルかポンジ・スキーム(ねずみ講式詐欺)による水増し価格に近づいている」と、1980年代の不動産バブルや1990年代のITバブルを連想させる回答もあった。

・パーミアン地域は今回の価格下落をもっとも上手く乗り切った。EIA(エネルギー情報局)によれば、2015年4月(シェールオイル生産のピーク時)から、北ダコタ州のバッケン地域では19%、テキサス州南部のイーグル・フォード地域では33%減産となっているが、パーミアンは14%の増産となっている。

・価値(value)は上昇している。2012年にエーカーあたり5,000ドルで購入(総額10億ドル)したある会社は、2016年8月には4万エーカーを含む事業を16億ドルで購入したが、エーカーあたり28,000ドル支払ったことになる。昨年の取引最高値はエーカーあたり58,000ドル相当だった。

・どの地域も完全に同一ではないので、これらの比較はけっして正確ではないが、いかに価値が上昇しているかは感じられる。

・今週、発表された2つの取引(エクソンによる27.5万エーカー、66億ドル。エーカーあたりの鉱業権24,000ドルのM&A、とノーブルによる32億ドル、エーカーあたり35,000ドル相当のM&A)は、市場がまだ好調であることの証左だ。

・パーミアンの価値は、技術革新により変質している。2009-10年に水圧破砕、水平掘削および(マイクロ)サイスミックによりブレークスルーし、生産が急上昇し始めたが、さらにコスト削減と生産性向上を実現している。

・(M&Aの)動機の一つは、隣接地の鉱業権を入手し、より効率的な生産を目指すところにある。(今では)一つの “Pad” から、車輪のスポークのように数多くの水平掘削を行い、リグ移動時間を大幅に短縮している。

・多くの会社が、穿孔(Perforation、生産坑井の壁に孔を開けること)の間隔を狭めている。先駆者の1社であるPioneer Natural Resourcesでは、昨年60ft間隔から30ft間隔を実施し、さらに15ft間隔を試みた、という。

・EIAによれば、パーミアン地域のリグ1基からの新規坑井1本あたり生産量は2011年末には101BDだったが、来月(2017年2月)には6倍の660BDとなる見込みだ。

・このような結果、多くの会社が最近の原油価格、52ドル水準で、商業的に成り立つと見ている。

・油田サービス会社Baker Hughesによると、パーミアン地域の水平掘削用稼働リグ数は昨年5月の116基から先週には221基にまで増えている。

・すべてのアナリストが、パーミアン地域での(鉱業権)価格が過剰だったと判断しているわけではない。データ分析会社Drillinginfoは、(昨年の最高値であるエーカーあたり58,000ドルの)QEP社の取引も31.50ドルで利益が出ると見ているが、調査会社Wood Mackenzienは、2016年の同地域でのと平均価格では損益分岐点として67ドルが必要だと見ている。

・長期的には、パーミアン地域の将来は明るいが、原油価格が低迷した場合には野心的過ぎたところは困難に直面するだろう。ウッドマックのベンジャミン・シャタッタ氏いわく「もし歴史が正しかったのなら、ブームの終焉は崖っぷちが現実に戻るその時だ」。

ふむふむ。
NYMEXの先物曲線を毎日見ているが、協調減産合意後、数ヶ月先から55~56ドルでほぼフラットだったのだが、ここのところ3~4年先が頭をもたげているように見える。この傾向が続くのかどうか注視する必要があるが、もしふたたび「コンタンゴ」に戻るならば、この2年間の資本支出削減による中期的なツケを市場が意識し始めたということになるのだろうか。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年1月20日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。