天下り斡旋は形を変えた贈収賄か

中村 仁

「天下り」問題が表面化した文部科学省(写真ACより:編集部)

大學は見返りに交付金、助成金を期待

文部科学省が元高等教育局長を早大教授に天下りの斡旋をしていたことが発覚しました。他に30件前後の疑わしい事例があるとかで、文科省次官が辞任というか、退任させられました。人材は官界にも多く、天下りすべてがすべて悪ということではなくても、今回は次官以下の組織ぐるみの行為で、国家公務員法の再就職斡旋の規則に触れる集団就職のようですね。

官庁が天下りを依頼し、大学側などが元官僚を受け入れる行為は、いわば贈収賄罪に相当するケースがあるような気がしてなりません。大学側が教授のポストを官庁側に提供し、その見返りに官庁側には、大学運営の補助金交付などで便宜を図ってもらうという取引きです。ポストを贈る、補助金を受け取るというディールです。補助金のもとは国民の税金です。

今回の事件では、もっぱら文科省側の責任が追及されています。文科省側が元局長を押し付けようとしたのが発端だろうし、あちこちの大学に同じようなことを依頼していたので、ひどいのは文科省だとなっているます。気がかりなのは、ひどいのは文科省ばかりでなく、ポストを贈った形の大学側の問題です。

文科省との橋渡し役を期待

早大のホームページには、元局長は「国の高等教育政策の動向の調査研究、文科省の各種事業に関する連絡調整などへの関与をする」と、紹介されています。あからさまな表現です。国から教育行政についての情報をとるばかりでなく、補助金交付で便宜を図ってもらう仕事をしている、とも読めます。

大学側が、ある種の贈収賄行為を告白しているようなものです。受け入れたのが高等教育局長ならば、大学総長レベルまで情報が上がっていると考えるのが自然です。メディアは大学責任者の説明や意図も取材すべきところです。

辞任する事務次官は、「気さくな人柄。偉ぶらず、人望も厚い尊敬できる人だった」(日経、19日)そうです。そんなにいい人が、形を変えた贈収賄的な行為に、何ら自責の念を持ち合わせていなかったことが深刻なのです。同じ記事に「文科省は学習指導要領改訂、新共通テスト導入に向けた制度設計のまっただ中」というくだりあります。生徒、学生への学習指導の以前に、文科官僚は国家公務員法の再就職あっせん規定を学習しなけれなりません。

生かせない公益通報者制度

企業や官庁などは、法令違反に対する内部告発者を守る「公益通報者保護制度」を設けており、文科省にも大臣官房総務課に窓口があり、専門官がいます。まったくそれが機能していなかったからくりも、調査対象にすべきでしょう。自分たちの不利になる通報はしないし、あったとしても黙殺してきたのでしょう。

冒頭に申したように、天下りを全面的に排除することに益はありません。文科省に限らず、有能な人材は退官後、民間で活躍してもらうことが必要です。その場合、官庁が持つ予算や許認可権との関係を遮断できるかが課題です。

米国では、民間人が閣僚、補佐官に大量に起用され、政権交代すると民間に戻っていきます。トランプ政権では、最大の金融機関のゴールドマンサックスの最高幹部が財務長官に就任します。日本でいえば、野村證券会長が財務長官になるようなもので、ありえない人事です。日本では起こりえない規模の民間と政府との間の人材交流が米国での基本で、それが彼らの強みにもなっています。日本は官から民への一方通行の社会で、それならそれで利益誘導をしないというルールを守ることです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。