東京都の小池百合子知事が、きのうの記者会見でこう述べた。
石原元知事に対しまして平成24年に東京地裁に訴状が提出されています。これは2011年3月、東京都と東京ガス株式会社、および東京ガス豊洲開発株式会社との間で行われた売買契約に関しまして、東京都は石原元知事に対して約578億円を請求せよという中身になっております。[…]
東京都といたしまして、豊洲の土地購入に係る当初からの事実関係をまず明らかにしていこうと。そしてこれまでの住民訴訟への対応をあらためて検討し直したいと、このように考えております。
THE PAGEは「豊洲市場の件で石原元知事に対し訴状を提出」という見出しをつけているが、これは誤りで、まだ「検討」している段階だ(きのうのVlogでは私も勘違いしたので撤回した)。しかし「東京都は石原氏を訴えよ」という住民の訴えに「対応を変更する」ということは、彼らの求める通り石原氏を訴えるという以外の結果は考えられない。
これは東京都が元知事に対して訴訟を起こす前代未聞の事態である。小池知事は「豊洲市場については用地を選定する件、それから土地を購入の契約をする、その経過が不透明であり、かつ不適正ではないかとの疑惑も多く指摘されている」というが、今ごろその責任を追及してどういうメリットがあるのか。
JBpressでも指摘したように、今まで豊洲の用地買収や建設にかかった約6000億円はサンクコストであり、意思決定で考えてはいけない。それより大事なことは、これからの豊洲の維持費だが、それがはっきりしない。豊洲にいくら「不安」があっても、築地を使い続ける機会費用のほうがはるかに大きいので、早く移転すべきだ。
彼女は「72カ所で環境の基準値を超過いたしまして、1カ所で基準値の79倍のベンゼンが測定をされた」というが、この環境基準とは土壌汚染対策法によれば、70年間、1日2リットルの地下水を飲用することを想定したものだ。これは井戸水の安全基準であり、コンクリートで遮蔽している豊洲市場とは無関係だ。そもそも今までの「モニタリング」に意味がなかった。
このように石原慎太郎という「悪」を作り出して自分を被害者に仕立てる彼女の手法は、ヒトラーに似ている。高田博行『ヒトラー演説』によれば、彼は意識的に次のようなレトリックを使った。
- つねに敵をつくり、自分たちがその犠牲者だと強調する
- 圧倒的多数の民衆は、女性のように論理ではなく感情で動く
- 同じ話を1000回くり返して初めて民衆は理解する
石原氏はユダヤ人のような「都民の敵」というわけだ。これはトランプも使っている(彼の場合はメキシコ人)古典的な手法である。「世界標準」のポピュリストが、日本にも出てきたのはおもしろい。彼女が国家権力を取る心配はないが、都政をめちゃくちゃにすることはできるだろう。これ以上「ゼロリスク妄想」で都民の税金を浪費するのはやめていただきたい。