知能のオリンピック ― 正規分布を考える④

IQテストが本当に知能を測定しているかを判断するのは、知能そのものの定義もないので難しい問題です。高いIQなのに「愚か」としか思えない人も沢山いますし、その逆もいくらでもあります。しかし、ここではIQが知能そのものだと仮定して話を進めましょう。

IQを測定すると概ね正規分布になります。この正規分布の平均値は100で標準偏差σは15-16程度です(IQテストにより差があります)。仮に15だとすると、2σ、IQ130以上の人は全体の2.2%です。これが3σの145なら0.14%、4σ160なら0.003%、10万人に3人くらいとなります。ただ、このあたりになると正規分布で計算するのがどこまで正しいか問題になるでしょう。身長なら4σは日本人では198cmくらいですが、10万人に3人よりは多いようにも思えます。

ヨーロッパに住むユダヤ人、の平均IQは115程度とも言われています。これくらい平均値が高いとIQ200はともかく、通常のIQの分布での4σ相当であるIQ160くらい、つまりサマーズが数学や理論物理学で優れた研究者になれるのに必要と見做したようなIQの持ち主は0.13%程度いることになります。ユダヤ人の人口を千万人とすると1万3千人、人口が1億人いてもIQ100が平均なら、IQ160以上の持ち主は3千人しかいないので、ノーベル賞の受賞者にユダヤ人が多いのも頷けるかもしれません。

IQが正規分布にどこまでもしたがって、いくとするとIQ200以上の人は千億人に1人程度になります。地球上の人類の人口は60億人程度ですから、IQ200の人は実際には存在しないと考えるのが妥当でしょう。しかし、もしIQ130くらいが平均となるような秀才集団がいれば、IQ200の超天才も百万人に1人くらいは生まれる確率になります。ユダヤ人をはるかに超えるような秀才集団は新人類の苗床になるのでしょうか。そうとは言えないかもしれません。

「正規分布を考える」初回の記事でご説明したように、身長やIQが正規分布にしたがうのは、それらの形質が沢山の遺伝的、環境的要素の集合だからです。非常に極端な数字が出る、例えば4σの範囲になるというのは、コインを15回投げて続けて表が出る、つまり色々な要素が知能をあるいは身長を高くするように揃うということを意味しています。

しかし、突然変異で今では存在しなかったような形質が現れるとすると話は違ってきます。それはラスコーの洞窟壁画のような高度な作品を描く人類が突然現れた原因と同様かもしれません。あるいは、ブラックショールズ式を頼りにしたLTCMが破綻した原因になったような、正規分布に従わない(LTCMの場合はロシアの国際市場の閉鎖)現象が起きたのかもしれません。多分、IQ200などという人物が突然登場したなら、それはコインの表が40回も続けて出るように遺伝子の目が揃ったからではなく、何らかの突然変異があったと考えるべきでしょう。そしてそれは新人類と呼んでも良いのかもしれません。