豊洲市場の安全は既に証明。移転になんの問題もない

宇佐美 典也

ども宇佐美です。

豊洲問題に関する議論が混迷を極め、知事の発表や、それを伝える報道のあり方もいたずらに不安を煽るのみで公正を疑うレベルになって来ているように感じます。そんなわけで、私なりに”正しい情報解釈のあり方”というものを求めて、土壌汚染対策の法体系や、豊洲における同法の適合状況をまとめてみました。


http://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/pdf/05_chpt4.pdf より)

まず大前提として土壌汚染対策のあり方については、その名も「土壌汚染対策法」 という法律に定められており、この法律では以下の3つのケースにおいて汚染の調査をすることとしています。

①有害物質使用特定施設の使用の廃止時(法第3条) 

②一定規模(3,000㎡)以上の土地の形質の変更の届出の際に、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事等が認めるとき(法第4条) 

③土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがある と都道府県知事等が認めるとき(法第5条)


豊洲の東京ガスの工場は現在の基準で当てはめれば「有害物質使用特定施設」に当てはまることは間違いありませんが、そもそも土壌汚染対策法が施行されたのは2003年のことで東京ガスの工場が廃止されたのはそのはるか前の昭和63年(1988年)のことでした。

なので2000年~2001年に東京ガスによって自主的に実施された既往の調査はあったものの十分とは判断されず、③の都道府県知事の判断として東京都が豊洲の土地を購入後の2007年に土壌汚染の再調査が行われました。このときの調査結果が「環境基準に照らして、ベンゼンが43000倍、シアン化合物が930倍」という惨憺たるものだったのは有名な話です。

さてここで「環境基準」という言葉の意味についてですが、土壌汚染対策法の体系では、この汚染調査の結果を判断する基準は二つあります。一つは「土壌溶出基準」と呼ばれるもので、これは地下水等を通じた人間の直接的な摂取を想定したもので、「70年間人が1日2ℓその土地の地下水を摂取し続けること」を前提に設定されています。そしてもう一つの基準として「土壌含有量基準」と呼ばれるものがあり、これは地下水等の直接的な摂取がない場合を想定した基準で「70年間その土地の上に人が住み続けること」を前提に「土が舞って口に入る」ことを想定したもので、この二つの基準を総称して「環境基準」と読んでいます。必然的に後者の「土地含有量基準」の方が緩い基準になっており、例えば土壌含有量基準では、今79倍と話題になっているベンゼンは対象にすらなっていません


https://www.env.go.jp/council/10dojo/y100-16/ref_04.pdf より)

豊洲の場合は「地下水の摂取や利用」が”全くない”わけですから、本来重視すべき基準は「土壌含有量基準」です。ただこの土壌含有量基準の観点で見たとしても、豊洲では2007年の調査の段階で基準を超過する汚染が判明しました。(土壌溶出基準で見てももちろんアウト)土壌汚染対策法ではこのような基準不適合の場合、その土地は、
 ・土壌汚染を通じた健康被害が生じるおそれがある「要措置区域」か、
・健康被害が生じるおそれはないが汚染は確認される「形質変更時要届出区域」

に指定されることになります。豊洲市場(建設予定地)に関しては地下水の利用もなく、また近隣に飛散するおそれがあるほどの表面に強い汚染があるわけでもなかったので2011年に後者の「形質変更時要届出区域」に指定されることになりました。


http://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/pdf/05_chpt4.pdf より)

「形質変更時要届出区域」では土地の形状を大きく変えない限りは”健康被害を生じるおそれがない”わけですからそのまま豊洲の工事を強行することもできたわけですが「汚染が残ったままでは生鮮食品を扱う市場にふさわしくない」という理由で総合的な汚染対策が進められることになりました。その代表的なものがいわゆる「盛り土」の措置で、実際に一部安全上の措置で地下ピットが設置された場所以外は盛り土がなされました。なお下の表にまとめられているように汚染対策は必ずしも盛り土に限定されたものではなく既存の土壌の入れ替えや処理も含むものです。


http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/08/houkokushoan_09.pdf より)

こうした汚染対策が総合的に実施された結果、平成26年(2014年)6月の時点で豊洲は土壌含有量基準を99%以上の地点で満たすこととなりました。(幾度かに分けて調査されたので下図は一例です)もちろん汚染が確認された1%以下の地点でも汚染処理がなされています。そしてこの上にさらにコンクリが敷かれることになるわけですので、もはや「汚染土が舞って、口に入り健康被害が生じるおそれ」は、全くなく無ったと言っても良いでしょう。


なので豊洲市場は現状においても土壌汚染対策は完璧で食の安全は確保されているのです。

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/dojou/taisaku/inquiry/inquiry02/#p02 より)

よく誤解されることとして、今ニュースで報道されている”環境基準”とは「土壌溶出基準」を指しており「環境基準の79倍」といった報道がなされているのですが、豊洲は地下水を使わないのでこれは安全対策上なんの意味のない数字ということになります。なので、世の中では全く科学的、法的に意味のない騒ぎが展開されていると言うことになります。

では「なぜこんな馬鹿げた騒ぎが行われているのか」といったら、それは豊洲への市場移転が小池知事と自民党都連との不毛な政争に巻き込まれてしまったからに他なりません。この期に及んで音喜多先生などは「都民の安心のために移転を延期してさらなる措置を」と主張されているわけですが、これは全く意味のないことです。あえて擁護するならば、「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」の報告書において地下水においても地下水環境基準を満たすことを目指す、という方針が示されたということはありますが、これは「形質変更時要届出区域の解除」を目的にして目標を設定したもので、本来は豊洲市場の移転とは直接にリンクされていないものでした。(この辺りの話は別途まとめたいと思います)

そんなわけで”豊洲市場の安全は既に証明されており移転になんの問題もない”のですから、なるべく速やかに老朽化した築地から移転すべきでしょう。これに異論を唱える政治家や評論家は全て、何らかの政治的意図を持っていると言っても過言ではありません。ただこの問題は科学や法律を超えてすでに政争化しており、こうした当たり前のことがまかり通らないのは大変残念なことです。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2017年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。