きのう、キッズラインCEOの経沢香保子さんから、昨今の「ベビーカー論争に心を痛めており、こんな調査をやってみました」というご連絡をいただきました。
ベビーカーで嫌な思いをしたママの割合ってどれくらい?【ベビーカー利用実態調査】
私も昨年初めての子どもが生まれてから、ベビーカーをよく使うようになりましたが、幸か不幸か、地下鉄でエレベーターで上がれるところが少ないといったハード面の不備に直面するくらいで、露骨に嫌な顔をされたり、舌打ちされたりといったソフト面の被害には、まだ逢っていなかったわけですが、アゴラでは年明け早々、おときた幹事長が巻き込まれたお寺のベビーカー論争をはじめ、この手の話題が尽きません。つい数日前も駒崎さんのやや形を変えた問題提起があったばかりでした。
おときた幹事長四部作
「初詣ベビーカー論争」相変わらず少子化一直線な社会の不寛容さ
続・ベビーカー論争
「ベビーカー論争」で改めて伝えたいこと。
安全対策を徹底し、ベビーカー置き場も完備。お寺に謝罪
この手の論争は、堂々巡りになっている感もあるわけですが、そもそも当事者のお母さんたちが論争をどうみているのか、キッズラインの調査では、このように「事情を理解し、優しく接してほしい」というのがダントツになっているようです。
渋谷区長の長谷部さんたち社会起業家のみなさんに感心するのは、この手の社会問題解決のアプローチにマーケティング的な手法を使うことでして、このベビーカー論争もなんとかならんかなと思います。
その意味で、キッズライン調査では、「顧客」である母親たちの声を聞きだしていることは意義深いわけですが、「嫌な思いをしたことがある」という人が過半数になり、具体的に嫌な思いをした場所としては、お寺…ではなくて、やはり電車。「電車内」が6割近く、「駅構内」が5割のワンツーフィニッシュで、鉄道会社界隈が、ベビーカーユーザーにとって見事に「鬼門」となっておるようです。
一方、ここで重要なのは、ベビーカーを「うざい」と思っている側の思考回路も知ることです。マーケティング的手法では、当事者すべてのパーセプションを知ることで「この商品を買ってくれない理由はなんだろう?」といった問題解決の手がかりになります。
ちょっと古いんですが、国土交通省が2010〜13年の民間企業によるリサーチをまとめております。「ベビーカーの使用マナー」に関する意識調査では、7割近くがベビーカーの人たちが電車内に近くに来ても「迷惑には思わない」ようなんですが、「こんなベビーカー連れが迷惑だ」という問いかけになると、我が物顏でスペースを占有している親御さんたちに非常に厳しいパーセプションがあるようです。
① お店などの公共施設の入り口をベビーカーでふさいでおしゃべり 80%
② ベビーカー連れが、2列以上になって歩道を占有しながら歩いている 77%
③ ベビーカーに子どもが置き去りにされている 54%
④ 狭い通路なのに、当然のように真ん中を通ってベビーカーを押している 52%
⑤ 通勤・通学の混雑の時間帯に、ベビーカーで電車やバスに乗り込んでくる 50%
このあたり⑤はやむを得ない事情もあるのかもしれませんが、①〜④は、気をつければ防げそうです。
結局、結論としては、ベビーカーを使っている側もマナーに気を遣い、周りも思いやりをするしかないわけですが、もうひとつ留意したいのは国交省の別資料。新聞記事に掲載された親の声というド定性調査ながら、ヨーロッパ駐在経験のある親御さんたちの声が収録されております。
「ヘルシンキでは、ベビーカー利用者によるエスカレーターの利用禁止はしっかり守られており、エレベーターの中には、ベビーカーか車椅子の利用者しかおらず、健常な学生や会社員と乗り合わせることはほとんど無い」
なんて記述を見てしまうと、私などはベビーカーを引きながら、どうみても健常者な現役サラリーマンやらおばちゃんあたりとエレベーターで出くわすもので、ヘルシンキとの彼我の差を感じてしまいます。まあ、結局はハード面のバリアフリーをやってもアレなわけで、ベタな言い方ながら「心のバリアフリー」がまず基本なのだと痛感します。そのあたり、経沢さんと話していても、一致を見た次第です。
もうひとつ付け加えるならば、なぜ日本が寛容でなく、欧米は寛容なのか?日本社会に変化を与えるフックを見出すためにも、国でも企業でも、子育てに寛容な欧米社会の人たちと、日本人、東京人のパーセプションの調査比較もやってみる必要があるのではないかと感じた次第です。
<アゴラ研究所からおしらせ>
アゴラ出版道場、第1期の講座が11月12日(土)に修了しました。出版社と面談が決まった一期生は企画をアレンジし、捲土重来を目指す受講者も日々ブラッシュアップ中です。二期目となる次回の出版道場は来春の予定です。
導入編となる初級講座は、毎月1度のペースで開催。12月6日の会は参加者のほぼ全員が懇親会に参加するなど、早くも気合がみなぎっていました。次回は1月31日の予定です(講座内容はこちら)。「今年こそ出版したい」という貴方の挑戦をお待ちしています。