【更新】過去の議会答弁は小池知事の決定を拘束しない

池田 信夫

豊洲より築地のほうが汚いことはこどもでもわかるので、科学的には移転すべきだ。法的には宇佐美さんも指摘するように「豊洲市場の安全は既に証明。移転になんの問題もない」。ところが百条委員会で石原元知事に質問した都民ファーストの会のおときた幹事長は、次のような図を出して「前に約束をした責任者がまず、自分が交わした約束が間違いであったことを認めて、ゼロリセットして初めて、新しい人物との約束を検討できる状態になります」という。


これは誤りである。今の石原慎太郎氏は民間人なので、彼の解釈に法的拘束力はない。過去の決定が土壌汚染対策法に違反するなら、違法状態を是正するまで移転を延期する必要があるが、豊洲の現状は違法ではない。石原氏が「ゼロリセット」する必要はなく、しても意味がない。

こういう誤解の原因は、法律と私的な合意事項を同列にみることにある。法治国家で法的拘束力をもつのは、国会で承認された法律だけである(都の場合は条例も含む)。議会答弁は単なる知事の解釈であり、合意事項は非公式の約束だから、一方が破棄したら消滅する。昨年11月7日に移転するという合意を小池知事が破棄したのは、その一例である。

この法律とそれ以外の「役所の掟」の違いは、つくる役所は強く意識しており、法律の条文には具体的な数字を書かないで「政令で定める」などと書き、彼らが自由に書ける政省令や答弁を実質的な法律に昇格させる。ところが民間人はそれを知らないので、法令と一体でとらえ、役所の決めたことはすべて法的根拠があると思ってしまう。

これが役所のトリックだ。石原知事の議会答弁は彼の解釈であり、おときたさんも認めたように、その「合意」は舛添知事が修正した。小池知事の移転延期に都議会は合意していないのだから、それを撤回することに合意は必要ない。彼女が今すぐ「予定通り移転する」と決定すればいいのだ。

*この記事は、今年1月24日の記事「豊洲問題を混乱させる『役所のトリック』」を一部書き直したものです。