けさのモーニングCROSSで取り上げたが、選挙の情勢調査の報道のあり方について、少しだけ補足する。
番組の視聴者アンケートでは、世論調査が投票行動に影響する、いわゆる「アナウンスメント効果」について否定的な人の方が多数という意外な結果だったが、ほかの地上波の報道・情報番組の視聴者よりネットメディアの読者が多いので、オルタナティヴな情報に対するリテラシーが比較的高いからだったと思う(と、持ち上げておく)。
アナウンスメント効果について学問的な調査では、優勢な“勝ち馬”に乗ろうとする「バンドワゴン効果」、“判官びいき”で劣勢の候補者に加勢する「アンダードッグ効果」が有名だが、それなりに研究の対象となってきた。日本やアメリカ、イギリスなどは、情勢に関する報道は比較的自由だが、フランスやイタリア、コロンビア等のように、投票前の一定期間から世論調査の内容を公表することを禁止する国もある(山形大学の学生が、規制のある国の一覧表をウェブにアップしていたので引用しておく)。
もちろん、日本でも人気投票の過程・結果を公表することは、何人たりとも違法だ。ネット選挙解禁の前は、報道機関以外の一般人がブログやSNS等で選挙期間中に「論評」のつもりで情勢を論じることは「法的にグレー」とみなされ、憚られるムードがあった。一方で、生々しい数字を明かさないものの、報道機関が情勢を自由に論評できるのは、その“特権”の代わりに、公選法でも定めるように「選挙の公正を害さない」ことを担保しているからだ。
その法の思想に鑑みれば、番組では名指しを控えたが、夕刊フジの「情勢報道」は、片方の陣営の候補者が未定の段階での過去のデータであり、選挙本番まで1週間を切った中で報道することが妥当だったのかは微妙なところだ。
とはいえ、規制をかける、かけない、それぞれにメリット、デメリットはある。私自身は公的な規制をかけるよりも、メディア、国民の側での自助努力の上に成り立つのが望ましいと思うものの、まだ結論は出ていない。ただ、確実に言えるのは選挙を取り巻くメディア環境の激変がこの数年めざましいことだ。
ネット選挙解禁後、第三者が投票日前までの選挙期間中にネット上で特定の候補者を自由に応援できるようになり、昨年の都知事選のように、大手マスコミ以外のネットニュースでは専門家が独自に候補者や陣営のことを論評して情勢に一定の影響を与えたと考えられる事象も出てきた(そのあたりは、拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)で分析したのでご参照を)。
ICT総研の調査では、スマートフォンのニュースアプリの利用者が、今年度末には4000万人にも達する見通しで、この夏の都議選、次の衆院選でも局所的に投票行動に影響を与えるような事象も出てくる可能性はある。メディア環境が一変し、選挙報道を取り巻く法的制度も変化に直面している、このタイミングで、政治家、メディア、有権者が選挙情勢報道のあり方について、腰を据えて議論をする時期に来ているのではなかろうか。
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