トランプ演説をあなどってはならない

玉木 雄一郎

1月20日、世界は変わり始めたのかもしれない。

第45代アメリカ大統領、ドナルド・ジョン・トランプ大統領の就任演説を聞いてそう思った。
相変わらず、内外のメディアは批判的だし、私も選挙中の数々の暴言には全く同意しない。
しかし、あの“暴言王”のトランプ大統領が話しているとは思わずに、純粋に演説テキストだけを読んでみると、これから訪れるであろう新しいアメリカの、新しい世界の秩序が浮き出てくる。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170121/k10010847631000.html

America First(アメリカ第一主義)
自国と自国民のことを最優先に考える。
国民国家としては当たり前のことが書かれている。

Your Voice(あなたの声)
民主主義とは、無視され、忘れられた人々の声を聞くことだという。
国民の声に応え、仕事がない労働者に仕事を作り、すべての子どもたちに平等な教育の機会を提供するという。
これは弱きを助ける「リベラル」の発想そのものである。
この単純過ぎるメッセージに抗える人はいない。しかも「言葉ではなく実際に行動する」と言うのだから、生活に不安と不満を感じている中間層には突き刺さる。

そして、不法移民や犯罪からアメリカ国民の命を守り、悪いイスラム国はやっつけるという。これまた、これ以上ないくらい分かりやすい「愛国」である。

実は、この「愛国」+「リベラル」の組み合わせがトランプ政権の最大の特徴だと考えている。私はこれを「愛国リベラル」と呼んでいるが、この「愛国リベラル」がうまく機能すれば、世界を変える大きな破壊力を持ち得ると感じる。もちろん、一歩間違えばポピュリズムに堕してしまうおそれはある。しかし、それでもなお、新しい世界秩序を形成していく可能性を秘めていると感じる。

トランプ大統領の演説を決してあなどってはいけないと思う。

ただ、問題は「アメリカ以外の国々」の平和と繁栄がどうなるかだ。
我が国も、荒波のような大きな影響を受けるだろう。
「トランプ氏が大統領になれば現実的な考えになるだろう」などという楽観的な期待はもはや通用しない。自分の国の未来は、自分でかたち創っていくしかない。

皮肉なことに、我が国こそ、まさに「アメリカ第一」でやってきた国だ。
アメリカから言われれば、お金も出すし、兵も出す。
こんな従属・依存関係を見直すチャンスだ。
そのためには、空想主義ではなく、相応の覚悟と現実的な準備が必要だ。

まず、急ぎ目指すべき方向性は次の三つだろう。
・国産品、国産材の消費を拡大し、食料自給率・木材自給率を高める。
・輸入に頼る化石燃料比率を低下させ、エネルギー自給率を高める。
・自衛隊の海外派遣を縮小して、我が国の周辺防衛に振り向け、自らの役割を強化する。

日本の国益を第一に考えるなら、いずれも当たり前の方策だ。
アメリカは、アジアでのプレゼンスを低下させるかもしれないし、食料やエネルギーの安定供給もしなくなるかもしれない。そんな時代への備えを万全にしなくてはならない。
その際には、既存の枠組みにとらわれない発想や政策が必要だ。

例えば、趣旨があいまいなお金を何十兆円も海外に配るのは止めて、これら3つの政策に政策資源を振り向けた方がいい。あるいは、本当に困っている日本の高齢者、学費の返済で苦しんでいる日本の若者の救済にあてるべきだろう。

政党や一人一人の政治家にも変革が求められる。古い発想の政治家は、与野党を問わず淘汰されていく。大変な世の中になるだろう。しかし、考えようによっては、楽しみな時代が到来したとも言える。

とにかく、自分の目で真実を見極め、自分の責任で行動するしかない時代の到来だ。

新政権の誕生を前向きにとらえ、大転換の時代に備えたい。


編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2017年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。