朝生30年。テレビはタブーを破ったか:『暴走司会者』

新田 哲史
暴走司会者 - 論客たちとの深夜の「激闘譜」
田原 総一朗
中央公論新社
2016-12-19

 

今夜の朝生は、「トランプ大統領と安倍政権」を取り上げるそうだ。アゴラとしては、日本で数少ないトランプ当選を的中させた渡瀬裕哉さんの初出演が実現しなかったのが非常に残念であるものの、かつて拙著の帯にメッセージを頂戴した堀江さんと乙武さんのダブル出演というタイミングでの本稿執筆にある種の奇遇を感じる。

それはさておき、気が付けばこの番組も4月には番組開始から30年だ。本書は、その歩みを振り返ったものだが、著者が「タブーに挑戦し続けてきた」と自負するように、「天皇」「原発」「右翼」「同和」など、80年代のテレビでは、まさにアンタッチャブルな題材を取り上げてきた。番組が始まったのは昭和の終わり近く。それから30年、平成の御世も終わりが見え始めた現在の感覚ではピンとこないが、当時、天皇をテレビで議論すること自体が戦後のタブーだった。

昭和天皇の病状が悪化し、全国的に祝賀行事の自粛ムードが漂っていく中、著者は「だからこそ、天皇論をテレビでやるべき」という使命感を募らせ、局の上層部に掛け合うが、「天皇だけは絶対にダメ」と言われる。結局、開催中のソウル五輪を引き合いに「オリンピックと日本人」を論じた回で、番組途中から強引に天皇論に舵を切る。もちろん著者が前もって画策し、上層部が黙認しての“奇襲”作戦なのだが、当時は、それほどまでのことをしないと番組で取り上げられなかった。

センセーショナルな番組だけに朝生への批判も多い。よくあるのが、なんでも「イエスかノーか」で迫る田原さんの確信犯的な手法であったり、「価値観も専門も属性も違う人間同士が激論をしても結論は出ない」といったりしたことが挙げられるが、原発を取り上げた時もやはり、原発の推進派、反対派双方の議論がかみ合わなかった。

ただ、それも著者自身は当時、議論がかみ合わないこと自体を伝えることに意義を見出していたそうだ。やがて、原子力産業会議の事務局長を長く務めた森一久氏と反原発の物理学者・高木仁三郎氏が、立場の違いを乗り越え信頼をするようになり、番組をきっかけに同会議のシンポジウムに高木氏が出席するまでに至ったというエピソードは、熟議とは対極的な番組のイメージと異なり、実に興味深い。

田原さんは「正しい」とか「間違っている」よりも「本音が知りたい」のだという。目が泳ぐ瞬間、顔色までもテレビは残酷に映し出す。すべてを切り出そうとする姿勢にブレがないことが、良かれ悪しかれ、ほかの地上波番組が躊躇する題材も取り上げる極意なのだろう。

一方で、数々のタブーを打ち破った朝生ではあるが、ネットメディアの運営をする私から見ると、タブー破りの功績は、ネット時代以前は存在感を発揮していたものの、ネット時代以後は、マスコミが取り上げない事象が次々にネットで可視化されるのに、テレビを取り巻く「ポリコレ」は、いまだ根強いものがあると感じる。

「3.11」が起きた頃は、私自身もまだ読売新聞を退社して日が浅く、そのようなことをネット上でわめくのは過激な反原発派か、ネトウヨくらいだと思っていたが、昨年、蓮舫氏の二重国籍問題をテレビがほとんど無視するどころか、テレ朝以外のある局で、出演者に「二重国籍問題の話はしないでくれ」と念押ししていたという話も聞く。田原さんの後継司会者が不在とされたまま、もう20年ほどになるが、タブーを破って本音で語ろうという“田原イズム”の後継者は、実はテレビにはおらず、アゴラを始め、新興のネットメディアがその役目を担わざるを得ないのだろうか。

とはいえ、私を始め、ネット世代にも番組のファンは多い。3年前の都知事選の時、家入さんのお供でスタジオに行った時は楽しくてしょうがなかった。知名度も社会的実績も乏しい私は絶対ご縁はないであろうが、若手の論客で、朝生に呼ばれることを「目標」にしている人は私の周りにもいる。アゴラの若手執筆陣からも、おときた駿氏、岩田温氏らがこれまでに出演を果たしており、編集長としては、新しい才能を、もっともっとあのスタジオに送り込んでみたいという思いもある。

ちなみに、気になるパネリストの人選基準だが、本書によると、番組初期から「出たい人ではなく、出したい人に出演を依頼する」。電話一本で出てくる出演者はその程度に過ぎないとまでいうくらいだから、PR業界で「朝生はほかの番組のようにプッシュできない」という評判が立つのも当然だ。実は最近もアゴラの若手メンバーでオファーを断った人がいたそうだから、ある意味、心強い。番組が30年の節目を迎え、平成の終わりも見えている中、朝生の未到の領域への挑戦がどこまで続いていくのか、これからも楽しみにしている。


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