最近、日本企業が海外の企業を買収するケースが増えています。
国内市場が飽和状態になっているという理由もあるのでしょう。
さて、企業を買収する時の買収金額はどのようにして決めればいいのでしょう?
それを考える前提として、永久債の価格の決め方をご説明します。
永久債というのは、元本は永久に戻ってこない代わりに毎年一定の利息がもらえるという債券です。
「元本が返ってこないなんて冗談じゃない!」と怒らないで下さいね。
その代わりに永久に一定額の利息が支払われるのですから(利息も積もれば元本を越えます)。
そこで、毎年10万円の利息が支払われる永久債(しかも発行元は絶対に破綻しない)があったとしましょう。ちなみに、利子率は年利2%で変わらないと仮定します。
利子率が2%なので、現在の100万円は1年後には102万円になります。2年後には102万円×1.02となり104万400円になります。このように、現在の100万円は1年後の102万円と同じ価値があるのです。
人間心理としては、1年後の102万円をもらうよりも今すぐ100万円をもらった方が嬉しいのですが(これを「現在バイアス」と言います)、理論的には現在の100万円と1年後の102万円は同じ価値なのです(利子率が2%という前提を忘れないで下さいね)。
ですから、1年後の100万円は現在の100万円よりも価値が低くなります。1年後の102万円が現在の100万円と同じですから。1年後の100万円を先の計算を逆にして1.02で割れば現在の価値になります。およそ98万円です。
ややこしくなってきたな〜と思われる方のために、あるお話を紹介しましょう。
農夫がある日自分の鶏を見たら、金の卵を1個産んでいました。農夫はとても喜んで金の卵をお金に変えてご馳走を食べることができました。
翌日もその鶏は1個の金の卵を産みました。翌々日も1個の金の卵を産み、毎日1個ずつ金の卵を産みました。
待ちきれなくなった農夫はその鶏を殺してお腹の中を見たのですが、何も入っていませんでした。
死んでしまった鶏はもう金の卵を産むことはできなくなりました。
この農夫がたくさんの金の卵を欲しがったのは、鶏が将来産む金の卵すべてをお金に変えて銀行に預金しておけば年2%の利息が付くからだとしましょう(笑)これと同じと考えれば、将来よりも現在のお金を方が価値が高いということがご理解いただけますよね。
ですから、将来のお金の現時点での価値はその額面金額(例えば100万円)よりも少なくなります。先になればなるほど、現在価値は少なくなります。1年後よりも10年後の100万円の方が現在価値が低いのは当然ですよね。
ということで、ズバリ結論を申しますと、毎年10万円の利息を永久にもらえる債券の価格は、利息である10万円を利子率である2%(0.02)で割った価格になるのです。ややこしくなるので説明は省略します。
つまり、毎年10万円の金の卵を産む鶏(永久債)の価格は、10万円を利子率(0,02)で割ったのと同じであり、計算すると500万円になります。
これは、丸暗記して下さい。永久債の価格は毎年の利息を利子率で割るだけ。たったこれだけです。
毎年20万円の金の卵を産む鶏の価格は(鶏が不老不死で永久に卵を産むと仮定すれば)20万円÷利子率(0.02)なのです。
企業を買収するのも「金の卵を産む鶏」を買うのと同じです。
例えば、A社がB社を買収しようと考えているとしましょう。B社は毎年1000万円のキャッシュを生み出してくれます(会計上の利益ではありません)。
「わかった、1000万円を利子率で割れば適性な買収額が出るんだな!」と早合点しないで下さいね(笑)ここで割るべき数値は利子率ではなく、買収しようとしているA社の株式の期待収益率なのです。
だって、A社が1年間で利子率である2%しか収益を産まなければ、誰もA社の株なんか買いませんよね。
銀行に預けて2%の金利をもらった方がはるかに安全確実ですから。
だから、A社としては7%くらいは収益を上げて、それが株価に反映させなければなりません。銀行預金や国債の利子と同じくらいしか収益しか上げられない企業は存在意義がないのです。
このように、A社は毎年7%の収益を上げられるので、1億円の手持ち資金を活用して1年後には1億700万円にすることができます。
もし、その1億円をB社買収に使って700万円よりも少ない金額しか生み出せないとしたら、B社買収に使わずに自社の業務に専念して7%の収益を維持した方が絶対に有利です。
ということで、割り算の分母は2%の利子率ではなく、買収する側(つまりA社)の予想収益率である7%で計算するのです。
毎年B社が生み出すキャッシュが1000万円なので、それを7%(0.07)で割ると、約1億4300万円となります。
B社の時価総額(株価×株式数)が2億円だから2億円で買収するというのは(他の事情がない限り)損な買い物ということなります。なぜなら、適正価格は1億4300万円なのですから。
現実社会では、時価総額の方が適正価格を上回っているケースの方がはるかに多いのです。
ですから、企業を時価総額で買収するのは(シナジー効果が見込める場合などを除けば)高値買いをしていると考えてほぼ間違いないでしょう。ましてや、時価総額にプラスアルファを加算するような買収の場合は、よほど説得的な説明が必要になります。
以上、もっともシンプルな買収金額の計算をご紹介しました。当然のことですが、現実はもっともっとたくさんの事情を斟酌しなければならず、計算式も複雑です。
ただ、基本となることは、「企業買収は毎年金の卵を産む鶏」を買うのと同じだということをご理解いただければ幸いです。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。