アベノミクス崩壊の序章となるのか、日米首脳会談

通常国会の本格論戦が始まりました。

トランプ政権での日米関係がどうなるか、皇位継承問題、共謀罪、そして文科省の違法な天下り問題と、今国会も様々なテーマを巡って論戦が行われています。与野党を超えた論客の議論には、感心させられるものが多くあります。

そんな中、肝心の財政や経済の議論についてはあまり報じられませんが、実は、今回の第3次補正予算や来年度予算には大いに問題があります。

私も、一昨日、昨日と補正予算の問題点を安倍総理、麻生財務大臣に質問しましたが、財政の現状に対してまったく危機感を持っておらず、心配になりました。

実は、今回の補正予算は、安倍政権のこれまでの補正予算とは全く性格を異にする異常、異例のものです。つまり、予定した税収が入ってこなかったため、それを穴埋めする約1.7兆円の赤字国債を発行せざるを得なくなった補正予算であり、実は、このような税収減を補てんする赤字国債発行は、リーマン・ショックの時以来、実に7年ぶりなのです。 

戦後の歴史を振り返っても、何度か同じような例はありますが、いずれも、東京オリンピック後の反動として景気が悪化した「40年不況」、「第一次オイルショック」、「第2次オイルショック」、「プラザ合意」、「阪神・淡路大震災」、「アジア通貨危機」、「ITバブル崩壊」、「リーマン・ショック」など、それなりに納得できる国内外のビッグ・イベントに起因しています。

しかし、今回はそうした内外の大きなショックはありません。それどころか、安倍政権は、経済は緩やかな回復基調にあると言い続けています。それなのに税収減を穴埋めする赤字国債を発行せざるを得なくなっているのは異常です。

数字はウソをつきません。

安倍総理の言葉とは裏腹に、現実の経済の状況、財政の状況、そしてアベノミクスは大きな曲がり角に差しかかっています。そのことを、今回の第3次補正予算は示しています。この予算が発するメッセージを真剣に受け止めなくてはなりません。

しかし、当の安倍総理、麻生財務大臣にその危機感が全くないので、問題を指摘されても、一時的な円高の影響に過ぎず民主党政権よりましだと、相変わらずの野党批判と自画自賛。そんなごまかしからはそろそろ卒業し、経済と財政の現状に謙虚に向き合い、次の一手を打って欲しいものです。

今回の3次補正予算をはじめてみたときの私の率直な印象は「安倍総理は裸の王様になりつつあるな」ということです。

税収が約2兆円も減っているのに歳出を6000億円も増やし、しかも、本当に急ぐものは災害対策の約1900億円のみで、残りは、本来なら来年度当初予算に計上されるべき経費の前倒し計上ばかり。

調子に乗り過ぎです。役人や自民党の中にも、総理や財務大臣を諌める人がいなくなっているのでしょう。

給料が減っているのに、外食やゴルフに行く回数を増やす人はいないでしょう。しかし安倍政権は、そんなことやっているのです。

こうした放漫な予算を編成していることもあり、財政状況は悪化してきています。政府に出してもらった数字は以下の通り。

まず、3次補正後のプライマリー・バランス(PB)の赤字▲16.7兆円は、予算編成時のPB赤字▲10.8兆円から▲5.9兆も悪化。これは単に税収減だけでなく、税の裏づけのない歳出が増加していることも要因です。

次に、先日内閣府から発表された「財政の中長期試算」だと、28年度の国のPB赤字は▲20.8兆にさらに拡大し、当初予算字のPB赤字▲10.8兆円と比較して10兆円も悪化する試算となっています。

さらに、前年度27年度のPB赤字は▲15.8兆円で、せっかく27年度(2015年度)の対GDP比PB赤字半減目標を達成したのに、今年度はそこから▲4.2兆円も悪化する見込みになっています。

そして、最新の中長期試算では、2020年のPB赤字が▲8.3兆円となり、昨年7月時点での中長期試算から半年でさらに約3兆円も悪化しています。

ここで問題なのは、これらの数字が全て「経済再生ケース」を前提にしていることです。来年度(2017)は2.5%2018年度は2.9%2019年度は3.7%2020年度は3.8%といった高成長を前提としてなお、2020年度に▲8.3兆円のPB赤字が残るのです。より現実的な成長率を前提にした「ベースラインケース」では、2020年度のPB赤字は▲11.3兆円にも膨れ上がります。 

こうした厳しい現実を踏まえ、昨日の予算委員会で、2020年のPB黒字達成は本当にできるのかと安倍総理に質問したところ、総理は答えようとせず、麻生大臣がかわりに答弁。しかし、麻生大臣も、野党批判と自画自賛だけで、厳しい現実に目を向けようとする態度が全く見受けられませんでした。これが日本国の総理、財務大臣なのかと暗澹たる思いになりました。残念です。 

歴代政権が国際公約にしてきた2020年度のPB黒字を達成するためには、あと約3年で、今年度から19.5兆円の財政の改善が必要です。

3年平均で3.5%の高成長を達成して税収が増え、また、2019年に予定通り消費税率をあげることができれば、それらから合計11.2兆円の増収があると見込まれていますが、それでもなお追加で8.3兆円の改善が必要なのです。

方法としては、更なる成長による自然増収、更なる増税、更なる歳出カット、でやるしかありませんが、3.5%を超える4%近い経済成長率が実現する可能性は低いし、消費税増税に加えてさらなる増税ができるか疑問です。あとは歳出の厳しい見直しを行うしかありませんが、安倍政権にはやる気がありません。今回の補正予算のような放漫予算を組むなら実現は困難です。

なお、2018年度に、PB赤字をGDPの1%に減らす「中間目標」もありますが、こちらはもはや絶望的です。経済再生ケース(2018年度2.9%成長)でも、2018年度は▲13.8兆円のPB赤字となり、GDPが約570兆円になる予定だから、13.8兆円-▲5.7兆円=8.1兆円分の改善が必要です。

しかし、あと約1年で、8.1兆円分の財政の改善をどう達成するのでしょうか。これも更なる成長のよる自然増収、更なる増税、歳出カットのどれで達成するしかありませんが、どれも無理でしょう。何より、安倍政権にはやる気がありません。 

円安頼みの極めて楽観的な経済運営はもはや限界に来ています。もし日米首脳会談で、トランプ大統領が、アベノミクスは為替操作だと言って、円安誘導を許さないと宣言すれば、その時点でアベノミクスはとどめをさされることになります。

そもそも、金融緩和頼みの政策の皮が剥がれつつあります。先日発表された消費者物価指数によれば、物価は10か月連続で下落し、2016年の物価は-0.3%となり、4年ぶりにマイナスになってしまいました。デフレに逆戻りです。 

そして、減ることはないと強弁していた年金額も、さっそく4月分から(支給は6月分から)0.1%減ることになりました。しかも、賃金は1.1%減っているので、仮に、先の臨時国会でとおった「年金カット法案」が適用されれば、1.1%も減ることになるのです。 

本人の自画自賛とは異なり、現実は厳しいのです。

安倍総理や麻生大臣におかれては、こうした厳しい財政の現実について、逃げたり誤魔化したりせず、誠実に質問に答えていただきたいと思います。こちらも、建設的な提案をしていきたいと考えています。

トランプ新時代、与野党を超えて難局を乗り越えていくときです。


編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2017年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。