ドイツで9月24日、連邦議会選挙が実施される。メルケル独首相は与党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)の筆頭候補者として4選を目指す一方、連立政権パートナーの社会民主党(SPD)はガブリエル党首(副首相兼経済・エネルギー相)が今月5日、「首相候補者として戦う」と表明し、党内の結束を固めるなど選挙モードだったが、24日に急きょ、党筆頭候補者のポストを断念し、欧州議会議長を5年間務めた後、ドイツ政界に復帰したマルティン・シュルツ氏(61)を党筆頭候補者としてメルケル首相の4選阻止を狙うことを明らかにしたばかりだ。
なお、シュルツ議長は昨年11月24日、議長の任期が終わる今年1月末、今秋に実施されるドイツの総選挙に社会民主党(SPD)のノルトライン=ヴェストファーレン州から出馬する意向を表明していたが、メルケル首相の対抗候補者に担ぎ出されたわけだ。
メルケル首相(62)は2015年の難民殺到とその後の国内のイスラム過激派テロ事件によって国民の批判にされされる一方、難民歓迎政策に批判的な友邦政党、バイエルン州の「キリスト教社会同盟」(CSU)との関係が悪化し、一時は4選へ赤信号が灯ったが、ここにきて支持率を回復させてきている。メルケル首相は11年間連邦首相を務める一方、与党CDUの党首を16年間務めてきた。
一方、シュルツ氏は20年間余り欧州議会議員、そして議長を務めるなど、その大部分の政治活動をブリュッセルで過ごしてきた。5カ国語に堪能でブリュッセルでは“ミスター・ヨーロッパ”と呼ばれてきた。ベルリンの独政界から久しく遠ざかっていたが、連立政権の諸問題の悪影響を直接受けることがなかっただけに、社民党の党刷新のイメージにマッチする利点がある。
ドイツ公営放送ARDの世論調査によれば、CDUの支持率は目下約35%で断トツ。一方、SPDは約23%でCDUとの差は3ポイント縮まったが、依然12ポイントの差がある。
ガブリエル党首が突然党筆頭候補者のポストを断念した背景には、同副首相が党筆頭候補ではメルケル首相を破ることはできないことが世論調査で明らかになったことがある。シュルツ氏が党筆頭候補者になれば、メルケル首相との戦いで善戦が期待できるという調査結果が出ていたことだ。
なお、ガブリエル氏は27日、党筆頭候補のポストだけではなく、党首の座もシュルツ氏に譲る一方、フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー外相が今年2月の連邦大統領選に出馬するため空白となった外相ポストに正式に就任した。
「世界で最も影響力のある女性」の常連、メルケル首相とミスター・ヨーロッパのシュルツ氏との戦いはドイツの総選挙を俄然、面白くしたことは間違いない。メルケル首相にとって、難民政策の修正をアピールし、国民に理解を求める一方、マンネリ化を回避するために新鮮なイメージを醸しだす作戦に出てくるだろう。一方、シュルツ氏はドイツ不在の空白期間を早く補い、国民、有権者の懸念、関心事がどこにあるかを肌で理解した上で、その持ち味でもあるバイタリティーを発揮したいところだ。SPDの緊急課題は、労働者党という看板を下した後の党の新しいアイデンティティの確立だろう。
総選挙では、CDUとSPDの他、同盟90/緑の党、左翼党、自由民主党、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)などが候補者を出す。特に、新党のAfDが外国人排斥を標榜し、選挙戦で台風の目となることが予想される。今年5月中旬に実施されるノルトライン=ヴェストファーレン州選挙は秋の総選挙の行方を占う恰好の機会となるものと受け取られている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。