「放射能いじめ」の元祖は朝日新聞だ

池田 信夫

朝日新聞は、このごろ「放射能いじめ」の追及に熱心だ。1月30日の「『放射能来た』いじめられ、でも「やめて」と伝えたら…」という記事では、転校先の小学校でいじめられた小学生の話を報じている。大したニュースではないが、これは朝日の方向転換を示唆している。

朝日新聞社の『AERA』は、2011年3月28日号の「放射能がくる」という全ページをつぶした特集で「首都圏が放射能で壊滅する」と報道し、人々を恐怖に陥れた。長期連載された「プロメテウスの罠」では「原発事故で鼻血が出た」という類の放射能デマを執拗に繰り返した。「放射能いじめ」の元祖は、朝日新聞なのだ。

朝日が「反日」だとか「偏向」しているというのは間違いで、明らかな事実誤認はまれだ。彼らはつまらない問題を大きく扱うことで「放射能は危険だ」というアジェンダ設定を行うのだ。もちろん放射能は危険だが、それは石炭火力とどっちが危険なのか、原発を違法に止める損失とどっちが大きいのかというアジェンダは問われない。

子供の「放射能いじめ」なんて、ちょっと前なら没だっただろうが、今はベタ記事に昇格し、ネットでも配信される。横浜では「子供が放射能いじめで150万円を脅し取られた」という真偽不明の話が大きく取り上げられるようになった。マスコミは自分のデマを棚に上げ、放射能デマをたたく側に回っているのだ。

慰安婦問題のときもそうだった。1991年当時は「従軍慰安婦」なんて小事件で、NHKでは10分の企画ニュースで終わった。それを「慰安婦問題」という外交的アジェンダに仕立てたのが朝日新聞だった。日本軍が他国を侵略したことは事実で、軍が娼婦を使ったことも事実だが、両者に必然的な関係はない。それを朝日は吉田清治という詐話師を使って「戦争犯罪」に仕立てたのだ。

吉田の話が嘘だったと朝日が気づいたのは、遅くとも1997年の特集の前だが、彼らは誤報を訂正しないで沈黙した。当時の大阪社会部長だった鈴木規雄と、外報部長だった清田治史が、慰安婦キャンペーンの主犯だったからだ。そして10年の沈黙のあと、安倍首相の訪米のときNYタイムズなどが騒ぎ出したときも、朝日は後追いしなかった。嘘だと知っていたからだ。

朝日が慰安婦問題を誤報と認めたのは、最初の記事から23年もたった2014年8月だった。彼らもバカじゃないから、福島で放射能の健康被害がなかったことぐらい知っているだろう。彼らはいまだに「プロメテウスの罠」の鼻血報道を訂正しないが、3・11から6年たってこっそり「転向」し始めている。

これを見逃してはいけない。朝日が沈黙しても、彼らが放射能デマで数十万人を傷つけ、「原発ゼロ」キャンペーンで日本経済に15兆円以上の損害を与えた罪は消えないのだ。われわれは今後も、朝日の報道犯罪を追及しなければならない。