読者の皆さまは、子どもに「なぜ生き物を殺してはいけないの?」と聞かれたらどのように答えるだろうか。殺してはいけないことはわかっていても。「なぜなのか」という理由が、よくわからない。
このような質問に対して、分かりやすい回答があるので紹介したい。『考える力を育てる 子どもの「なぜ」の答え方』の著者であり、浄土真宗本願寺派僧侶、保護司、日本空手道「昇空館」館長も務める、向谷匡史(以下、向谷氏)の見解である。
■殺すというのは自分勝手な価値観
以前、道場で、次のようなことがあったそうだ。休憩時間に窓から蜂が入ってきた。「あっ、蜂だ!」と、一人が指さして叫ぶなり、「やっつけろ!」「殺しちゃえ!」と、男の子たち数人が手に空手用具のハンドミットを持って蜂を追いかけ始めた。
「私が注意すると、『刺されたらどうするの?』と口をとがらせます。蜂→刺される→だから殺す→どこが悪い、という論理展開ですね。安全ということを考えれば。これは正しいことです。しかし、『命の尊さ』という視点から見れば、問題があります。」(向谷氏)
「自分にとって不要だから、自分にとって危険だから、自分にとって不都合だから、といった自分中心の価値観で、他の命を奪うということが問題なのです。」(同)
しかし、子どもたちは腑に落ちない。そこで、こう言い直したとのことだ。
「あの蜂、名前を”太郎”って言うんだ。『えっ?』子どもたちが目を剥きます。『実は、館長が飼っているんだ』。『ウソだ』と笑いますが、私が『太郎』と蜂を呼ぶうちに。子どもたちはミットを下ろしていました。名もない”ただの蜂”から。名前を持った蜂になったことで『殺す』ことに抵抗感が生じたのでしょう。」(向谷氏)
そして、子どもたちを整列させて、次のように問いかける。
「『家で犬や猫を飼っている人?』『ハイ!』と何人も手を挙げます。『かわいいかい?』『かわいい!』。そこで、さらに問います。『どうして、おうちで飼っている犬や猫はかわいいんだろう?』。一瞬、詰まってから『飼っているから』と口々に言うのを待って、『蜂も飼っていたらかわいくなるかな?』『なると思う!』『亀を飼ってるけどかわいいよ』と子どもたちは話します。」(向谷氏)
「同じ生き物なのに、かわいがっているから殺さない、かわいがっていないから殺してもいい、というのは何かヘンじやないか?キミらの身勝手な気持ちで殺される蜂は、たまったもんじやないね。命というのは、蜂も亀も、人間もみんな同じなんだ。」(同)
■具体的な事実で体験的に得心させる
数日後、雨が降るなか、湿気が多く、羽蟻がたくさん窓から道場に入ってきた。低学年の子どもたちは踏みつぶそうとした。
「『ちょっと待った!羽蟻に好きな名前をつけて、外へ出るように話してごらん』と言うと、子どもたちが床にしゃがみ込み、『○○ちゃん、お外だよ』と、手でやさしく掃き出すようにしたのです。」(向谷氏)
「命の大切さなど、人間の根幹に関わる問いは、具体的な事実で体験的に得心させておく必要があります。『蜂も、蟻も、蛙も、花や木もすべて一所懸命に生きているんだよ。だから殺したらかわいそうだね』と話を結べばいいのです。」(同)
なお、本書は子供向け教育に書き上げられたものだが、ケースにリアリティがあることから大人にもお勧めできる。上司のコネタとしても役立ちそうだ。多くのケースを理解することで物事の正しい道筋を見つけられるかもしれない。
尾藤克之
コラムニスト
<PS>
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