大谷のWBCは永遠に幻?大会廃止なら日本球界改革にさす影も

新田 哲史

MLB公式サイトの取材に不出場の心境を語る大谷翔平投手(同サイトの動画より引用)

本人だけでなく、各方面に非常に痛い出来事だ。野球の国・地域別対抗戦、いわゆるWBCで今大会最大の目玉になるはずだった日本ハムの大谷翔平投手が右足首の故障により、大会不参加が3日、決まった。

“二刀流の侍”は永遠の幻か

率直なところ、連覇への期待がかかった2009年、13年のキャンプインに比べると、野球ファンとメディア以外の一般社会まで盛り上がっていると言い難い。MLBも注目する大谷投手の活躍と侍ジャパンの勝ち上がり次第で、またブームが再来する可能性もあったが、参加する日本人メジャーリーガーは、アストロズの青木宣親外野手だけ。マー君(田中将大投手)も、ダルビッシュ投手も、マエケン(前田健太投手)もおらず、人気・実力ともに真の最強代表を編成できているとは言えない。その中で、大谷投手の不参加が決まり、MLBもスポンサーも落胆は隠せないだろう。

早ければ来季のメジャー移籍も噂される大谷投手だけに、MLBの視線は熱かった。日本ハムの名護キャンプには、MLB公式サイトのレポーターとして、30年以上のキャリアを誇るベテラン、Barry M. Bloom氏を派遣しており、大谷自身が彼の直撃に心境を語っている(動画もあり)。

Ohtani won’t pitch but hopes to bat in Classic

Bloom氏は、この記事の執筆時点では野手としての出場に望みをかけているようだが、日本のスポーツメディアでは、手術の可能性が取りざたされ、不出場が決まった。

大谷が侍ジャパンとして「二刀流」の才能を見せつけ、世界に衝撃を与える夢のようなシーンは、仮に来季、メジャー移籍すると、そのまま夢になる可能性は濃厚だ。「二刀流」の契約で海を渡るのかは、まだわからないが、前述の3人の日本人メジャーリーガーの投手に匹敵する巨額契約になるであろうから、2021年の次回WBCでは、その時の所属球団の意向で辞退するシナリオが順当になる。ある意味、最近のWBCは、米国外の選手たちの「見本市」という側面があり、一旦、メジャーに移籍してしまった選手、球団にとって、もう巨額契約を抱えた状況での負傷やコンディショニングの難しさ等のリスクから、WBCに出るインセンティブは働きづらい。

しかも、ここに来て、当の米メディアでもWBCの大会消滅が取りざたされている。

WBCが来年の大会を最後に消滅の可能性 米メディア報道 | THE PAGE

もし今大会が最後になってしまうと、大谷の侍ジャパンとしての活躍の場は、理論上は、東京オリンピックだけになるが、夏場のシーズン真っ盛りにメジャー球団がオリンピック出場を容認するのは絶望的だ。つまり、もう侍ジャパン・大谷の可能性は完全に費えるわけだ。

日本球界の「バッドシナリオ」を垣間見る思い

仮にWBCがなくなってしまえば、侍ジャパンの存在理由は東京オリンピックだけになる。ソフトボールと融合してまで、オリンピック復帰を辛うじて果たした野球だが、2024年以降のオリンピックで実施競技に入り続けるのか、非常に疑わしい。次の記事も指摘するように、野球が盛んでない国での開催になれば実施の意義が薄れる。

2020年東京五輪野球復帰も、2024年は外される? 米メディア「IOCはサッカー同様国際的なスポーツであると認めるべき」(ベースボールチャンネル)

もちろん、大谷の「侍」幻化も、WBC消滅も、オリンピックからの再度の野球外しも、現段階では、すべて悲観的に未来を占った一つのシナリオにすぎない。しかし、これまでの経緯を考えれば、そういう方向に転ぶ可能性は高い。未来のことなので、まだ野球メディアは指摘していないが、侍ジャパンの常設化という大義名分を通じてプロ・アマの融合など日本球界の改革機運が高まってきた中で、WBCもオリンピックもなくなれば、新たな国際大会の枠組みを作らない限り、侍常設化の意義は根底から揺らいでしまう。

そうなると最大の懸念は、球界にはびこってきた内向き志向の再燃だ。ここ数年、蒔いてきた様々な改革の種がようやく芽を出しつつあろうという中、国際大会で勝つという「外圧」がなくなり、球界のエネルギーが内へ内へとまたも働きはしまいか。保守派と改革派の主導権争いであったり、プロ・アマのセクショナリズム再燃など、時計の針を戻すような事態にならぬよう、特に若い世代の球界関係者の奮起に期待している。

大谷投手のアクシデントは個人の問題だけではない。野球界のバッドシナリオを垣間見る出来事なのだ。