社長に定年制度を --- 牧野 雄一郎

アゴラ
社長イメージ 写真AC

写真ACより:編集部

高齢化する経営者たち

デービット・アトキンソン氏の「新・所得倍増論」が話題になっている。日本の一人あたりの能力が高いにもかかわらず生産性(一人あたりGDPなどの指標)が国際的に低レベルにあることを多くのデータから実証されている。その分析力は類書の比では無く、日本人のプライドにも配慮しながらも良くぞここまで書いてくれたと私は感謝申し上げたい。

しかし最終章の「日本の潜在能力をフル活用するには」という部分にて彼は「上場企業の時価総額を政策目標にすべき」といった提言をしている。政府や機関投資家が大いに時価総額アップを要求せよということだ。このアイデアには少し疑問が残る。「時価総額の上昇」は短期的には当期純利益を上げるしか無い。結果的に行き着くのは、人件費の抑制、IT投資の先送り、研究開発費の削減といったところが関の山だ。

そもそも日本の経営者にプレッシャーを掛けたところで時価総額は上がるのだろうか?この問題に一つの答えを求めるとすればそれは社長の年齢である。日本の上場企業経営者の年齢は日々の新規上場によって変動しているが概ね59歳と言われている。欧米企業の平均値が50歳とされているので約10歳も上だ。様々な研究でも経営者の若さと企業の成長性に相関があることは検証されている。

人間歳を取れば保守的になる。まして高齢の経営者はITに疎いケースが殆どだ。昨今のIoT、インダストリアル4.0、機械学習、ブロックチェーン、ロボティクスといった技術は単なる効率化のためのITなどとは違い、既存のビジネスモデルそのものを根底から覆すパラダイムシフトだ。この時代そのような事に理解の疎い経営者が長期的に自社の時価総額を高めることなどできるのだろうか。

社長の定年制を導入せよ

だとすれば、長期的な成長曲線を描けないパフォーマンスの低い経営者を強制的に交代させる仕組が必要ではないだろうか。それは「社長の定年制」だ。大抵の企業で「役員の定年制」はあるが、社長は業績が良ければ交代しないケースが多い。定年制というと、「高齢だからと一様に引退させるのは年齢差別だ」と、かつての中曽根元総理のような発言をする経営者もいるだろうが、定年が「年齢差別」なら社員の定年制度も新卒限定採用も明らかな年齢差別だ。ならばこの日本に定着した定年制度を逆手にとって社長にも定年制度を導入してはと考える。

社長定年制の導入には「日本版スチュワードシップ・コード」を利用してはどうかと考える。スチュワードシップ・コードはイギリスのモデルに従って日本でも2年ほど前から導入された制度で、機関投資家(年金基金、金融機関、ファンドなど)に対して「投資家としての行動規範」を求めるものだ。彼らが規律ある企業運営と長期的成長のための株主提案として「社長の定年制」を提案してはどうか。

仮に社長の定年を60歳、新規社長の年齢を50歳にしたとなればその影響は計り知れない。一般的に考えて役員も50代、多少の時間は必要だろうがおのずと経営幹部は40代半ばとなるだろう。体力・気力があり、変化を受け入れる余裕も、経験も充分な40代が中心に企業を運営すれば意思決定のスピードや新しい事への取り組む変化が期待できるだろう。日本の中核を担う上場企業経営陣が50代になればそれだけでも話題になる。入社した若手も70歳まで細く長く働くより50歳で社長になる夢に燃えるだろう。

日本における現在の閉塞感の元凶はアトキンソン氏のデータでも度々取り上げられた「人口ボーナスの終焉による高齢化」だ。これは一般的には「社会全体の高齢化」を意味しているが、働く若手にとっては「経営者の高齢化」も「幹部の高齢化」も大きな閉塞感となっている。私もかつて務めていた大企業でも、同僚から「やっている仕事が高齢者のパソコン教室か介護職場と変わらない」といった発言もあった。

もちろんこれまでの年功序列の秩序を簡単に変えられるわけでは無い。予想外に早く退職することとなった50代以上の社員からは多くの不満と軋轢が起きることだろう。そして新しい50歳社長が本当にパフォーマンスを上げるかは企業の風土と本人適正だからそこに絶対は無い。しかしこのような荒療治をせずにアトキンソン氏の指摘する「現状維持」を続けて日本経済が再成長するとも思えないのは私だけだろうか。

牧野 雄一郎
原価管理コンサルタント 中小企業診断士 事業再生アドバイザー
アゴラ出版道場一期生

大手精密機器メーカーにて原価管理、調達部門を通じて、コストダウンと事業構造改革に従事。独立後は中小企業の原価管理、事業再生のコンサルタントを行っている。

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