財務省の人や経済学者が「日本の財政は危ない」というと、「政府はふつうの会社とちがって倒産しないから大丈夫」という人がいます。倒産というのは資金ぐりがつかなって借金が返せなくなることですが、政府はいくらでもお札を印刷できるから借金がいくら増えてもかまわないというのですが、本当でしょうか?
いくらでも借金できるというのは本当です。サラ金でも他の店から無限に借り換えできれば、永遠に借金を増やせます。日本政府も、国債を返すお金を国債で借り換えれば、永遠に借金を増やせるわけです。でもお金を貸してくれる店がなくなったら、どうなるんでしょうか?
サラ金だとそこでアウトですが、政府はお札を印刷すれば返せます。でも借金を返す財源は税収(社会保険料を含む)しかないので、たとえば今後の税収の現在価値(会社の時価総額みたいなもの)が500兆円だとすると、500兆円足りないことになります。この足りない分はどうやって払うんでしょうか?
会社だと、株価が下がってバランスがとれます。たとえばトヨタの時価総額は21兆円で、株価は6445円。株式数は32億株ですから、
時価総額21兆円=株式数×株価=32億株×6445円
ですが、ここでトヨタの業績が悪くなって、時価総額が10兆円に下がったらどうなるでしょうか? これは小学生の算数でわかりますね。
10兆円=32億株×3100円
つまりトヨタの株価は6445円から3100円に下がるわけです。トヨタが倒産することもありえないので、トヨタはいくらでも借金を返せますが、その株価が下がってバランスが取れるのです。
財政も同じです。株式を国債に置き換え、時価総額を将来の(正味の)税収、株式を国債に置き換え、国債の価格を100円とすると、収入と支出のバランスがとれるためには、
税収総額=政府の借金1000兆円=国債の数×100円
という条件が必要です。ここで将来の税収が500兆円しかないとすると、バランスがとれる国債の価格は、
500兆円=国債の数×50円
なので、国債が売られて価格が半分になり、金利が上がります。このとき借金を返すためにお金(日銀券)をどんどん印刷するのでインフレになり、物価が2倍(お金の価値が半分)になってバランスがとれるわけです。でも株価が下がると株主が損するのと同じで、国債や日銀券をもっている国民の財産は半分になります。
つまり政府がお金を印刷してインフレにしたら、国債の実質価値が下がって収支のバランスがとれます。これを実質債務のデフォルトといいます。政府が倒産して借金を踏み倒すことはありませんが、実質債務は(合法的に)踏み倒せるのです。
日本の税収は今の借金を返すには大幅に足りないので、いずれ財政収支を均衡させないといけません。それを増税でやろうと思うと長い時間がかかりますが、インフレならすぐできます。これは財政支出も減らす「小さな政府」なので、よい子のみなさんの負担も減るでしょう。これが物価水準の財政理論というむずかしい理論の超簡単バージョンでした。