【映画評】東京ウィンドオーケストラ

渡 まち子

鹿児島県・屋久島の自治体に招かれ観光気分で島にやってきたアマチュア・オーケストラ。役場の女性職員・樋口が、日本でも有数の名門オーケストラと間違えて招聘したのだった。勘違いする役場の面々に対して真実を言いだせないオーケストラは、こっそり島を逃げ出そうとする。彼らが偽物だと気付いた樋口は、このまま本物だということで押し通そうと決意するが…。

有名オーケストラと勘違いされたアマチュア楽団と役場の女性職員が巻き起こす騒動を描くハートウォーミングなコメディー「東京ウィンドオーケストラ」。才能ある監督の自由な演出や作家主義、さらに俳優発掘をテーマに立ち上げられた企画“松竹ブロードキャスティング”の第3作だ。オーケストラを間違えるというモチーフは「オケ老人」でも使われていたが、本作はウィンドとウインドの一文字違いというベタな展開である。自治体の職員(公務員)が実際に楽団が到着するまで間違いに気付かないなど、現実にはありえないのだが、そこをツッこむと物語が成立しないので、とりあえず目をつぶろう。有名楽団と間違えられ困惑するメンバーについては、ほんのりとその背景を描くにすぎないが、それぞれの生活ぶりやキャラが分かりやすく伝わるのが上手い。日々の単調な仕事や惰性で続いている不倫関係などの日常にうんざり気味の無気力な樋口が、この一大ミスを通して、ある意味、充実した時間を過ごし、ほんの少しだけ変化するのが見所だ。監督の坂下雄一郎は本作が初の商業映画監督作品。ワークショップで選抜された新人俳優たちが多数出演し好演している。わずか75分の尺の小品なのだが、登場人物たちがほんのちょっぴり成長するという、身の丈にあった物語に好感が持てる。いつも不愛想な樋口は明日もきっとあまり変わらないだろう。それでも時々はにっこりとほほ笑むようになるかもしれない。そんなことを想像するだけで楽しくなる憎めない作品だ。
【60点】
(原題「東京ウィンドオーケストラ」)
(日本/坂下雄一郎監督/中西美帆、小市慢太郎、松木大輔、他)
(成長度:★★★☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。