現行制度は「自白」を間接的に強制している

実際の取調室出入口(警察庁サイトより:編集部)

犯罪を犯して逮捕された人に対して取り調べ担当の刑事が「洗いざらい自白した方が罪は軽くなるぞ」という場面をドラマ等で見たことがありませんか?甘い言葉を信じて虚偽の自白をしてしまうところからドラマが始めるパターンが多いのですが、実は「罪が軽くなるぞ」という言葉は嘘ではないのです。

自白だけで有罪判決を下すことができないという大原則はありますが、犯罪事実が明白な場合に量刑の一資料として「自白して反省しているか否か」を考慮することは判例で認められています。

例えば、覚せい剤の所持で現行犯逮捕され尿からも覚せい剤反応が出たとなれば、「覚せい剤取締法違反」の「所持」と「使用」の罪にあたることはほぼ確実です。そういう事件で、犯罪事実を黙秘している被告人と素直に自白している被告人がいるとしたら、後者の方が少なくとも2ヶ月くらい宣告刑が軽くなってしまうのです。「素直に自白して反省の情が認められる」という理由で。

また、自白しないと保釈もなかなか認められません。
昔の保釈申請書の書式に「被告人は犯罪事実を全て自白しており、罪証隠滅、逃亡の恐れもない」と書かれていたのを初めて見たときはびっくりしました。その後、自白をしていない被告人の保釈が滅多に認められないという事実に何度も直面し、憤りを覚えたものでした。

保釈申請がなされると、担当検察官の意見が付されて裁判所に回されるのですが、自白をしていない被告人の保釈には検察官が反対するのです。

検察官に「証拠も揃っているし(罪証隠滅の恐れなし)しっかりしたした家族もいるので(逃亡の恐れなし)、保釈申請に同意して下さいよ」と談判に行くと、「それじゃあ、先生が本人に自白するよう説得してくださいよ」と逆に依頼される有様でした。

そもそも刑事訴訟法には「無罪推定原則」というものがあり、有罪判決が確定するまでは被告人は無罪と推定されるのです。身柄拘束は、罪証隠滅や逃亡の恐れがある時の「やむをえない」例外措置なのです。

ところが実際には、自白を取る目的で身柄拘束が使われているのです(最近、若干改善されましたが…)。
いきなり一般社会から隔絶されて警察の留置所や拘置所に拘束されれば、普通の人はパニックになります。何度も刑務所と実社会を行き来している常連でも、逮捕当初はパニックに陥る人が少なくありません。

こんな状態ですから、早く外に出られるとなれば「とりあえず自白して法廷で本当のことを言えば信じてもらえるだろう」と思ってしまうのは無理ありません。

接見の際に「身に覚えのない自白をしてしまうと取り返しがつかなくなりますよ!」と重々注意して頻繁に会いに行くことで乗り切る被疑者・被告人が多いのですが、出てきた後の彼らの感想は一様に「本当にしんどかった」というものでした。もちろん、ドラマのように暴力を振るわれるようなことはありませんが、社会との隔絶が一番こたえるそうです。

昨今、刑事司法の見直しの動きが顕著ですが、是非とも「自白=反省」という安直な運用はやめて欲しいと思っています。

本当に反省しているかどうかは本人しか分かりません。演技力のある人間が得をしてしまうのです。

現に、「法廷で思いっきり涙を流して下さいね」と指示してうまく泣けた被告人の量刑が思いの外軽くて驚いた経験が二度ほどあります。「本法廷で涙を流して犯行を悔いており、反省の情が顕著に認められる」という判決理由でした(笑)

荘司雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2014-08-26

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。