政府の長時間残業規制プランを巡り、労使の綱引きが続いている。
【参考リンク】
月100時間残業「あり得ない」…連合会長
残業規制、脱時間給制の導入を前提に 経済同友会が意見書
というのは表向きで、実際には綱引きというより連合が非常に居心地の悪い状態に追い込まれているというのが正しい。簡単に論点整理をしておこう。
そもそも残業時間に上限なんて作る必要はない
勘違いしている人が多いが、法律で残業時間に上限なんて作る必要はない。というのも、そもそも時間外労働というのは、わざわざ労使が三六協定という協定を結んで長時間働けるよう取り決めして行われているものだから。だから、本当にイヤなら神津連合会長はただこう言えばいいだけの話。
「出来るだけ早期に協定を見直して月60時間以上の残業はやらないよう傘下労働組合に指示する。受け入れられないならストだ」
まあホントにそんなこと言ったら化学総連みたいに連合離脱する労組が続出でしょうけど(苦笑)
要するに、終身雇用を守るためには長時間残業は必要悪であり、だから労使は一緒に協定を結んでそれを受け入れてきたのだ。「極悪な経営者に長時間働かされている哀れな労働者」というのはこと連合についてはフィクションで、現実には「自分たち組合員の雇用を守るため、労使で協力してやりくりしているクレバーな正社員」というのが正しい。
【参考リンク】
残業、カッコ悪い、と偉い人が言い出した時に読む話
とはいえ、本音では残業は必要悪だと理解しつつも、国民の長時間残業に対するバッシングがあまりにも強いことにビビッて、「お、おう、残業月100時間なんぞ飲めんわい」と勢いで言っちゃって引っ込みがつかなくなっているというのが今の連合である。
労働時間=カネにこだわった結果、残業減=収入減となってしまう
ついでにお金の話も。当たり前だが、残業を大幅にカットするということは、残業代も大幅にカットされるということだ。さっそくその点を指摘する報道もチラホラ出てき始めている。
「働き方改革」で残業代減少、政府部内にも消費減退の懸念
過労死撲滅に向けた働き方改革は、日本経済に悪影響か
その責任は、時間ではなく成果に対して払うというホワイトカラーエグゼンプション(以下WE)のような改革に根こそぎ反対し、労働時間=お金という基準に固執し続けてきた連合にある。残業上限がどうなろうがとりあえず企業の残業抑制方針は当面継続するだろうから数年間は減収が続くのは間違いない。
連合に残された道
これから連合はどうするのか。
筆者の予想だと、もうちょっと引っ張ってから経団連会長とトップ会談して「言うべきことはしっかり伝えた」とか何とか言って繁忙期100時間OKという形でこっそり土俵を降りるような気がする。
でもこれだけ引っ張っといてホントに降りたら赤っ恥である。みんなで盛大に笑ってやろう。連合自身が「長時間残業は終身雇用の必要悪であり、わたしたちはこれからも経営と一心同体、残業に精を出してまいります」と宣言したようなものだから。
メディアもよくおぼえておいて、これから過労死が発生するたびに経営だけじゃなくて労組もきっちり吊し上げていただきたい。
一方、ただ流れに身を任せることも考えられる。厳しい世論に流される形で、たとえば「残業は月60時間を上限に」と、かなり厳しい規制を受け入れるケースだ。その場合は、残業手当減による実質賃下げと(持ち帰り等による)サービス残業化が蔓延することになるだろう。
まあどっちでもいいですよ。連合さんのお好きなようにやってください。
個人的には後者の方が面白いことになりそう気がする。
だって、賃金カットとサビ残だけが残るというオチには、さすがの連合も重たい腰を上げざるを得ないだろう。
必要なのは、時間ではなく成果で支払う賃金制度。成果をきっちり評価するための評価システム。もちろん、それらを実現するためには各人の業務範囲を明確化し、裁量もセットで与える必要がある。
そうしたテーマは、これまでWEの議論などで連合が避け続けてきたものだが、リアルで厳しい残業上限が設置されてしまえば、連合は正面から取り組まざるをえなくなる。付け加えるなら、成果をきっちり評価し、賃金に反映させる以上、それは柔軟に上下する流動性の高い処遇となる。組織内の序列が流動化すれば、必ず労働市場全体も一定程度は流動化するはずだ。
というわけで、筆者も厳しい残業上限の導入に賛成しておこう。
とか何とか考えていたところ、話の分かるリベラル駒崎氏が確信犯的に煽っておられる(笑)
全国の働くみなさん、残業100時間OKになりそうです
(意訳「ねーねーなんでれんごーは過労死認定基準以上の残業を認めるのなんでなんでー?」)
月80なんてみみっちいことは言わず、ここはひとつ、上限月40時間の例外無しなんてどうだろう?わくわくするような社会になるかもね!そんじゃーね。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年2月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。