離婚して親権者とならなかった親(多くは元夫)からの養育費の支払いが滞り位がちで子供の貧困の原因になっているというニュースが頻繁に出ています。
離婚はしても親子関係は永遠に切れないので、養育費を支払うのは親としての最低限の義務です。
ところが、現実には全体の2割くらいしか養育費の支払いがなされていないとのことです。
最低限の義務である養育費を支払わず子供に公的援助を受けさせることは、支払わない親が納税者に自分の義務を無償で肩代わりさせていることになります。到底許されないことでありましょう。
では、どういう理由で養育費が支払われないのでしょうか?
離婚の際、「養育費はいらないから子供とは二度と会わないでほしい」という意向を示すケースが案外あります。
元夫や元妻がモラハラなどDVをやっていたような場合だけでなく、離婚時に感情的になって宣言してしまうケースも少なくありません。
一度宣言してしまうと、「いまさら払えなどとは言いたくない」という気持ちはわかりますが、養育費は子供のためのもの。
子供の養育に事欠く場合は必ず請求するようにしましょう。直接言うのがためらわれるなら、家裁に調停を申し立てればいいでしょう。
元夫や元妻が再婚して、再婚相手が養育費支払いを渋ることが不払いの原因となることも多いですね。
昔、私が弁護実務修習で担当弁護士の法律相談に立ち会っていた時、「夫が前の妻との子供の養育費を支払うので家計が苦しいのです。赤の他人のために、どうして私や(今の)息子が苦しまなければならないのでしょう…」と泣き出した相談者がいました。
私が弁護士となってからのことですが、元夫に養育費の請求をしたところ元夫が現在の妻を連れてきて三者で話し合ったケースも何度かあります。
元夫が現在の妻を連れてきたのは、現在の妻を納得させることが目的だったようです。
現在の配偶者の理解が得られない場合は、(弁護士が間に入らなくとも)家裁から履行勧告等をしてもらえば大きな説得材料になります。
子供の親権者になった親は、是非とも家裁に相談することをお勧めします。
親が元妻や元夫を嫌って、養育費を支払わないようプレッシャーをかけているケースもたまにあります。
拙著「本当にあったトンデモ法律トラブル」で紹介したケースでは、実家に電話したら母親が出て「息子の住所も職場も教えるわけにはいかない」とケンカ腰の対応を取られました。
(住民票上は親と同じ住所なので)本人宛に家裁から通知が行っても「不在」で返されてくるのです。
子供にとって祖父母は直系血族となるので法的な扶養義務があります。
私は、元夫の父母(子供の祖父母)を相手方として家裁に扶養申立をしました。
その経緯等は同書に譲るとして、実父母からの援助が見込めず元配偶者の居場所が不明の場合は元配偶者の父母に扶養請求をするというのも一つの方法です。父母から息子(娘)に対して「自分たちに迷惑をかけるな」というプレッシャーが与えられて支払いがなされる可能性があります。
いずれにしても、困ったら家裁の窓口に相談することを強くお勧めします。
相談料は要りませんし、家裁の書記官は経験不足の弁護士よりもはるかに知識を持っています。家裁の窓口は概ね(区役所等の)普通の役所よりずっと親切に対応してくれるので、まずは家裁窓口に行ってみましょう。
手続き的な工夫ですが、養育費の支払いを取り決める際、(可能であれば)子供名義の口座を作ってそこに振り込むことをお勧めします。
元配偶者名義の口座に振り込むことにすると「子供のために使われるかどうかわからない。相手の贅沢に使われるのではないか?」と疑心暗鬼になる人が少なくありません。
今は、ネット上で口座の状況を見ることもできるので、子供名義の口座への振込と口座状況のチェックを支払う側に委ねておくのも効果的です。
子供との面会交流を認めないから養育費も払わないという人も多いですね。
面会交流というものは、とても微妙で難しい問題をはらんでいます。
両親がいがみ合っている状態で無理やり面会交流をさせると「子供の福祉」にとってマイナスになることもあります。
もっとも、面会交流権は第一義的には「子供の権利」なので、親権者である親のわがままで拒絶すべきではありません。
相手の性格や精神状態などに不安があれば、家裁に申し立てて調査官の調査を経るのも一つの方法です。かなり難しいケースになると、精神科医などが意見書を出すこともあるという極めてデリケートな問題なので、親の身勝手な判断は慎みましょう。
私の経験知の範囲内で総じて言えることは、一流企業職に勤めている所得の多い相手は相場よりも高い養育費を支払う傾向があるようです。
金額を聞いてビックリして「随分気前がいいのですね〜」とつい言ってしまうことがあります。
高収入で支払い余力があるということと、給与の差押えをされると人事考課に響くというのが理由なのかもしれません。
この時点で既に経済格差が生じているのを見るにつけ、なんとも言えない気分になることがしばしばあります。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。