ビジネス心理学をご存知だろうか。よく知られているものに、アサーティブ、フレーミング、バーナム効果、コールドリーディングなどがある。相手の妥協を引きずり出す「ちゃぶ台返し」なども該当する。
神岡真司(以下、神岡氏)はビジネス心理学の専門家である。ビジネス心理学に関する著書も多く、30万部ベストセラー『ヤバい心理学』がある。今回は近著『効きすぎて中毒になる最強の心理学』(すばる舎)を紹介したい。
■数字のマジックで印象操作は思いのまま
――人には思考のフレームが存在する。同じこと、同じ状況であっても、その印象や解釈は人それぞれである。「お客様と待ち合わせをした際、相手が遅れてきたことに腹を立てる人もいれば、意に介さない人もいる。
――今月の営業実績は目標をクリアしたので『よくやった!』と思っていても、上司は『この程度の数字で満足するのか!』と思ってしまうもの。事前情報を得ていた場合や、その時点の状況次第でも印象は大きく変わってくる。
「5分程度遅刻する見込みの時は、『申し訳ありません。かくかくしかじかで、15分遅れます』と途中で連絡を入れ、遅れを多めに伝えるべきです。遅刻された相手が、待たされて苛立つのは、『従属の心理』を強いられ不快だからです。15分遅れると伝えられて、5分程度で相手が到着すると相手の『頑張った感』が際立ちます。」(神岡氏)
「そうすることで相手の不快感が軽減するはずです。営業実績も月末ギリギリまで数字を計上せずに、最終日に上げたほうが『頑張った感』がうかがえます。部門の数字が悪ければさらにインパクトがありますから、月末ギリギリのほうが効果的です。」(同)
――「思考の枠組み」を変えるのに、「数字」をうまく使うと効果的だ。業績アップをアピールする時には「前期の営業利益率 1%が、今期は2%になりました」と発表するより、「営業利益率が、前期の2倍にまで改善しました」と言うほうがインパクトは大きい。
「ほかにも、プロマネであれば『失敗の確率は10 %以下にすぎません』より、『成功確率は9割以上あります』のほうが効果的です。かつて農林水産省は、省益を守るため、多くの国が使っていない『カロリーベース』なる指標を設けました。『日本の食料自給率は39 %しかなく先進国中で最低。食料安保上、重大な危機』と宣伝していました。」(神岡氏)
「ところが、世界標準の『生産額ベース』に換算した数値も出すと、『日本の食料自給率は66 % (2015年度)』もあり、中国、米国、インド、ブラジルに次ぐ、世界第5位の農業大国であることがわかりました。」(同)
――さすがに日本の官僚は優秀である。「フレーミング効果」を巧みに操り、国民のミスリードもお手のモノ。国民はまんまとだまされた。つけいるスキもない。
■数字をわかりやすく置き換える
――多くの人がダマされている数字トリックがある。数字はありのままの無機質な客観的データに見えるので、人の錯誤を誘いやすい。次のケースがある。実は、AもBも同じ意味だが受ける印象は異なるはずだ。
A)タウリン1000ミリグラム配合
B)タウリン1g配合
A)本日は50人に1人、お買い上げ商品代金が無料
B)該当者2% (100人に2人)、お買い上げ商品代金が無料
A)レタス10個分の食物繊維
B)3.2g相当の食物繊維
A)レモン50個分のビタミンC
B)(レモン1個20ミリグラム換算× 50個)のビタミンC
A)ご愛用者、100万人突破
B)ご愛用者、人口1億2690万人の0.8%突破
他にも、スーツの量販店で、2着目以降が1000円という表記も同じトリックに近い。1着買うだけより、2着買うほうがオトクに見えるが、実はそうではない。
なお、本書に取上げられたケースはリアリティがあることから日頃のビジネスにも転用可能だ。楽しみながらビジネス心理学を理解できることだろう。
尾藤克之
コラムニスト
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