韓国「聯合ニュース」(日本語版)によると、韓国統一部は5日、「脱北者が提供した情報または持ち込んだ装備に対する報奨金の大幅な引き上げに関する内容を盛り込んだ『北韓離脱住民の保護および定着支援に関する法律施行令一部改正令案』を立法予告した」と発表した。給料や報酬のアップは一般の会社員や労働者にとっては朗報だが、脱北者の場合は無条件にいいとは言えない。
改正令案によると、「国家安全保障に有用な情報を提供した脱北者に支給する報奨金の限度額が現行の2億5000万ウォン(約2500万円)から10億ウォンに上がる」という。4倍のアップだ。新人の野球選手が初年シーズンで3冠王となった場合、翌年の給料は前年の4倍アップも考えられるが、通常は例外だ。その4倍アップを脱北者が提供する1級の情報(国家安全保障に係る情報)に支払われるようになるというのだ。統一部によると、1997年以来20年ぶりの脱北者への報奨金引き上げだという。
もう少し、報酬アップの具体的な説明を「聯合ニュース」から紹介する。
「北朝鮮の軍事装備とともに韓国入りした脱北者に対する報奨金の限度額も約5~7倍増える。軍艦や戦闘爆撃機に乗り脱北した場合は現行の1億5000万ウォンから10億ウォンに、戦車やその他の飛行機での脱北、誘導兵器を持ち込んだ場合は5000万ウォンから3億ウォンに、砲・機関銃・小銃など武器類を所持した場合は1000万ウォンから5000万ウォンにそれぞれ引き上げられる」という。
今回の報酬アップの背景には、昨年亡命したテ・ヨンホ前駐英北朝鮮公使のような北朝鮮エリート層の脱北を誘導する狙いがあることは明らかだ。目的はいいが、問題も出てくる。
当方は冷戦時代、ウィ―ンに逃げてきたソ連・東欧諸国からの亡命者とコンタクトがあった。彼らの多くは母国への思いと共産政権への強い憎悪があった。彼らが西側メディアに報告する“鉄のカーテン”の実態はショッキングであり、共産政権崩壊へ大きな貢献をもたらしたことは事実だ。ただし、それだけではない。亡命者の情報が事実とは異なっていたという体験も少なからずあった。共産政権から逃げてきた高官や著名人は自身がメディアに流す情報によって、“亡命者としての自身への評価”(報酬)が変わることを知っているので、どうしても大げさな情報や時にはフェイク(嘘)が飛び出してくるのだ。
当方は脱北者にも同じ懸念を感じている。報奨金がアップすれば、ひょっとしたらエリート層の脱北者が増えるかもしれない。彼らがもたらす北の内部情報は貴重だが、同時にフェイク・ニュースも急増するだろう。脱北者にとって、自身が語る情報で脱北者の評価、地位が決定するため、誇大情報から偽りまで玉石混交の情報が飛び出してくるだろうし、報酬金目的の脱北者も出てくるだろう。
偽情報や恣意的なフェイクニュースは韓国政府の対北政策、戦略を混乱させる危険性が出てくる。脱北者の情報は貴重だが、彼らの情報を検証する受け入れ体制を一層強化する必要があるだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。