森友学園が、国(国土交通省)から受け取った「サスティナブル建築物先導事業に対する補助金」に関連して、(a)約21億8000万円、(b) 約15億円、(c)約7億5000万円という金額の異なる3通の請負契約書が作成され、(a)の契約書が提出された国から5000万円余の補助金が学園に支払われた事実があることが明らかになっている。この契約書が、補助金を国から受けるための虚偽の契約書だった疑いがあり、補助金を不正に受給した補助金適正化法違反の疑いがある。
この疑いについて、森友学園は、3月8日、ホームページ上に「補助金申請について」と題する「お知らせ」を掲載して、「補助金詐欺には当たらない」と主張している。
これだけ社会的に注目を集めている案件で、具体的な犯罪の疑いが生じているのに、いまのところ、警察、検察が捜査に動いているという話はない。
補助金適正化法29条1項は、「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と規定している。
森友学園が、国に提出した請負契約書が、実際の契約内容とは異なるものであり、それを認識した上で提出したのであれば、「偽りその他不正の手段」を行ったということになり、そのような契約書提出によって補助金の交付を受けた場合には、同条項違反の犯罪が成立する。
森友学園のホームページでは、補助金詐欺(上記法律違反)の疑いを持たれていることについて、次のように説明している。
①補助金申請時に申告する建築費(請負金額)は、申請後に増額変更することができない。そのため、実際に工事が始まって建築費が上振れた場合、それに見合った補助金を受領できないという事態が生じうる。それを避けるべく、上振れ分を十分に見込んで申請した。そして、その(上振れ分を十分に見込んだ)申請金額とつじつまを合わせた請負契約書を提出した。
②補助金の申請時期が実施設計前の段階であったこと、募っている寄付金次第では計画の大幅な見直しが予測されたことから、申請時には建築費の上振れの可能性が十分にあった。
③実際に支払われた補助金については、申請時より大幅に工期が遅れたにもかかわらず、現場確認がなされないまま、当初の計画通りに入金がなされてしまったものであり、工事が進行中で返還すべき金額も不明なため、国の指示を待つ状況が続いている。
④最終的な建築費が確定した時点で適切な申告を行い、適切な補助金額を受領する意向である。
この「お知らせ」に書かれていることからは、補助金適正化法違反の疑いは全く晴れない。
①②で述べていることは、補助金申請の時点では、将来建築費が増額される可能性があったので、その分を見込んで、実際より金額の大きい(a)の請負契約書を作成して提出した、ということであるが、少なくとも、申請時に提出された(a)の契約書が、請負金額を水増ししたものであって事実に反するものであれば、「偽りその他不正の手段」によって補助金を申請したことになる。
そして、その申請の結果、当初の計画通りに補助金の支払が行われたのであれば、現場確認が行われたか否かに関わりなく、申請に基づいて「補助金の交付を受けた」ということであり、③も弁解にならない。④は、「不正に受け取った補助金であっても、後で返せば良いだろう」と言っているもので、これも全く弁解にならない。
森友学園の補助金適正化法違反の犯罪の成否に関して問題となる点は、次の2点である。
第1に、「真実の請負金額」がいくらなのか、という点である。
補助金不正受給の罪で処罰するためには、「本来交付されるべきであった補助金額」と「偽りその他不正の手段によって交付された補助金額」との差額を「不正受給額」として特定する必要がある。そのため、「真実の請負金額」が特定される必要がある。
この点について、契約を締結した建設業者は、大阪府に対して、(b)の金額が正しい請負金額だと説明しているようだ。それに対して、森友学園の籠池理事長は、3月8日の大阪府の調査の際も、報道陣に、(c)の7億5000万円が正しいと説明している。
(b)は、建設業者が、建設業法による経営事項審査申請に記載している工事受注額のはずであり、それが虚偽であれば、建設業者が同法による行政処分の対象になる。一方、森友学園側は、(c)の金額の請負契約書を私学審議会への小学校設置の認可申請に添付しており、それが虚偽であれば、認可を得ることが絶望的になる(ただし、私立学校法では虚偽の申請に対する罰則はない。)。
どちらが述べていることが真実なのかが確定できないと、犯罪の成立は立証できない。
この点については、3月8日の大阪府の検査の際に、籠池氏が提出した工事代金の前払い分1億5552万円の領収書は、森友学園が主張する請負代金7億5600万円ではなく、関西エアポートへの助成金申請で提出した約15億5000万円の契約書の内容と一致したとされており、 (b)の請負金額に合致しているようだ。捜査機関が請負代金の積算根拠等を確認することで、(b)の契約書が真実であったことが確認されれば、この点の問題は解消される。
第2に、実際に支払われた補助金の手続において、建物の建設費用がどのように認定されたのかである。この点について、「専門家を交えた検討の結果、補助対象の設計費と工事費はおよそ15億2000万円と算定され、6194万円を助成することになり、先月までに5644万円余りが支払われている。」との報道がある(NHK)。国土交通省側で、6194万円の補助金額の算定の根拠としての建築費用をどのように認定したのかが問題となる。
補助金適正化法違反の犯罪の成否は、この第1の点と第2の点の相関関係で決まる。
もし、第1の点について、建設業者が説明しているように、(b)の請負金額が正しかった場合、 森友学園が国交省に提出した(a)の金額の請負契約書が虚偽だったとしても、国の側で審査した結果、請負代金が(b)の金額であることを前提に補助金を交付したのであれば、「偽りその他不正」は行われたが、それによって補助金が不正に交付されたのではないということになる。詐欺罪であれば未遂罪が成立するが、補助金適正化法違反については未遂は処罰の対象とされていないので、犯罪は不成立となる。
一方、第1の点について、森友学園側が主張しているように、(c)の請負金額が正しかった場合、国交省側が補助金の手続で算定の根拠にした請負代金が(a)であっても(b)であっても、正しい金額とは異なっていたことになるので、「偽りその他不正の手段」によって補助金が不正に交付されたということで、補助金適正化法違反の犯罪が成立することになる。
籠池理事長が、大阪府に提出した契約書の(c)の金額が正しかったと言い張れば言い張るほど、犯罪の成立の可能性が高まるという皮肉な結果になるのである。
このように、申請の際に提出した契約書と補助金交付の基になった金額との関係によっては、補助金適正化法違反の犯罪が成立する可能性もあるが、一方で、森友学園側では虚偽の契約書を出して補助金を受けようとしたものの、結果的には国は騙されることなく、適正な金額の補助金を交付したということで、犯罪不成立ということもあり得る。
しかし、その場合でも、虚偽の契約書を提出して、私立学校の設置申請をすることも、補助金を不正に受給しようとすることも、当然のことながら法律が許容する行為ではない。前者は、それが発覚すれば、認可が得られなかったり、事後的に取り消されたりすることになることを考慮して罰則の対象にされていないだけあり、補助金不正受給は、未遂が罰則の対象とされていないだけであって、不正に補助金を受給しようとする行為が許されるわけではない。犯罪が成立しないからといって、森友学園が社会的非難を免れるものでは決してないのである。
刑事事件による事実解明ができないのだとすれば、行政手続や議会の場での事実解明の必要性が一層高まることになる。
編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2017年3月10日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は森友学園ウェブサイトの画像より引用)。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。