世の中には医師の書いた医学書が溢れている。しかしその見解は医師によって大きくわかれている。例えば、昨今は2人に1人ががんにかかると言われているが、手術を受けて容体が悪くなるケースもあれば回復に向かうケースもある。外科の所見は難しい。ゆえに患者は不確実な情報のなかで取捨選択を迫られる。
しかし、知るだけで患者に役立つ医療情報も存在する。ここに一冊の興味深い本がある。『正しい時間の使い方が、あなたの健康をすべて左右する』(東洋経済新報社)である。著者の石黒源之(以下、石黒医師)は、医師、医学博士であり、岐阜市で石黒クリニックを開業し地域に密着した医療を提供している。
現在は、医療法人社団医源会理事長、岐阜大学医学部臨床准教授、岐阜薬科大学非常勤講師、特別養護老人ホーム寿楽苑嘱託医、岐阜在宅医療研究所所長なども歴任する、臨床医のスペシャリストでもある。
■ブラックタイムの存在を理解する
――「冬」「月曜日」「早朝」は、最大のブラックタイムである。生にリズムがあるなら、死にもリズムがあり、健康にリズムが深く関わっているのである。
「病気もリズムに多大な影響を受けています。それが『ブラックタイム』の正体でもあります。数あるブラックタイムの中でも、最も注意すべきタイミングが3つあります。それは、『冬』『月曜日』『早朝』の3つです。なぜ、これらのタイミングが“とりわけ危険”なのかご存知でしょうか。」(石黒医師)
「この3つになぜ注意すべきか、具体的な例を挙げながら理由を説明しましょう。」(同)
――まず、石黒医師は「月曜日」が最も危険な曜日であるとしている。真面目な人ほど、月曜日に無理をすることは控えなけばいけないと。
「心筋梗塞は、冬の月曜日の早朝がいちばん多いのです。ある救命救急医療センター循環器科で心筋梗塞の発症した日時について過去10年間のデータをよく調べたところ、驚くべきことがわかりました。働いている人が心筋梗塞を起こした曜日は、仕事始めの月曜日がいちばん多かったのです。」(石黒医師)
「原因は、仕事に向かうストレスと考えられます。休み明けの月曜日、仕事に向かう多くの人がストレスを感じているものです。このストレスが、働き盛りの世代の心臓を直撃します。肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などで注意されていて、しかも勤労意欲の高いタイプであれば、なおさら注意が必要です。」(同)
――注意すべき時間帯などはあるのだろうか。
「真面目で仕事熱心な人が心筋梗塞を起こす時間を調査したところ、月曜日の朝8時ごろが最も多く、2番目は日曜日の夕方4時ごろに多いことがわかりました。明日からの仕事のことを考える日曜日の夕方からストレスが強くなって、心筋梗塞が起きると考えられます。」(石黒医師)
「また、スポーツマンタイプの人ほど要注意です。アスリートは、引退してデスクワークに就くと太っていく人が増えます。運動をしなくなると現役時代と比べて筋肉量がどんどん少なくなり、体の消費カロリーも格段に小さくなるのに、現役時代と同じ食べ方を続けてしまうからです。」(同)
――ここに落とし穴が潜んでいるようだ。このようなタイプの人が昇進をすると、激務が重なりストレスが増える可能性が高い。熱心に仕事に取り組むことで、かえって健康を害してしまうことが少なくないようだ。
■思い当たる点がないか検証を
――これは、一般のサラリーマンにとっても有りうる話である。月曜日の出社に気が滅入ってしまうことは少なくない。「あーあ、明日から憂鬱な会社がはじまる!」、こんなことを考えたことはないだろうか。
「日曜日になると、明日からの仕事の段取りを頭の中で無意識に考えていませんか。そして、まだお休みだというのに、心配ごとに頭を悩ませたりしていませんか。日曜日はどうも寝つきが悪い、ということはありませんか。」(石黒医師)
「40代、50代で、高血圧、高脂血症、高血糖などがあって、いま述べたような症状を自覚するようであれば、土曜日、日曜日は意識してリラックスできるような工夫が必要です。」(同)
――とくに冬場は要注意とのことだ。思い当たる点がないか振り返ってもらいたい。
「冬場は注意しなければなりません。それを放置しておくと、月曜日の早朝に血管系のイベント(心筋梗塞や脳卒中など)に結びつく可能性が大きくなります。土曜日、日曜日は意識してリラックスする工夫を取り入れることをお勧めします。」(石黒医師)
――冒頭でも説明したが、本書は知るだけで患者に役立つ医療情報である。石黒医師の、臨床医としての「37年間の研究と経験」の書き下ろしでもある。突然の事故や病気から、あなたと家族を守るためにも参考になるのではないかと思う。
参考書籍
『正しい時間の使い方が、あなたの健康をすべて左右する』(東洋経済新報社)
尾藤克之
コラムニスト